企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書

企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書(以下、連続意見書)は、企業会計原則と当時の商法、証券取引法、税法などとの間での相違点を調整したり、企業会計原則の考え方を明示するために昭和35年〜37年の間に企業会計審議会から公表されたものです。

※実務上重要となる会計基準(会計監査六法)を会計監査六法(Web版)で整理しました。

連続意見書第一 財務諸表の体系について

 財務諸表の体系の統一

 企業が決算に際し作成すべき財務諸表に関して、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下単に財務諸表規則という。)、商法および税法の規定は必ずしも同一ではない。これが企業会計の実務に種々の支障を来たしている現状にかんがみ、これら諸法令における財務諸表の体系を、企業会計原則に示されているものにできるだけ一致するよう改めることが望ましい。
 企業会計原則と財務諸表規則

 企業会計原則は、財務諸表として、次の五つのものをあげている。

 損益計算書
 剰余金計算書
 剰余金処分計算書
 貸借対照表
 財務諸表付属明細表

 財務諸表規則に定める財務諸表の体系は、企業会計原則と実質的には同じである。もっとも財務諸表規則では、欠損金およびその処理に関するものには、特に欠損金計算書および欠損金処理計算書という名称を付している。しかし、これらはそれぞれ、剰余金計算書および剰余金処分計算書の一形態にほかならないので、ことさらに別個の財務諸表であるかのような誤解を招くおそれのある名称を付する必要はないであろう。
 企業会計原則と商法

 商法第二百八十一条は、取締役が定時総会の会日より二週間前に監査役に提出すべき書類として、次の五つのものを挙げている。

 財産目録
 貸借対照表
 営業報告書
 損益計算書
 準備金及利益又ハ利息ノ配当ニ関スル議案

 この規定に基づいて、商法における財務諸表の体系を考察すると、次の諸点が問題となる。

1 財産目録

 財産目録が初めて法律上の制度としてとり入れられたもは、債権者の保護、具体的には支払能力の測定を目的としてのことであり、そこでは貸借対照表は、単に財産目録の要約表と考えられていたにすぎない。ここにおいて貸借対照表は、財産目録から作成されなければならないという思想が確立されるに至った。
 ところが、企業会計において損益計算の重要性が強調されるにつれて、貸借対照表と損益計算書とは有機的関連を保つべきことが認識されるようになった。このためには、貸借対照表をも含めて、財務諸表は、正確な会計帳簿に基づいて作成しなければならない。ここにおいて財産目録と決算貸借対照表との関係は切断され、財産目録は決算貸借対照表作成の手段としての機能を喪失するに至り、現在においては、財産目録は貸借対照表に記載された資産および負債の明細表としての意義を有してはいるが、企業の財政状態の表示としての貸借対照表の機能を充分に発揮させるためのスケジュールの制度が発展するに伴って、決算報告書としての財産目録はその意義を失うに至った。かくて、今日では財産目録は、決算報告書としての財務諸表の体系からとり除かなければならない。

2 財務諸表付属明細表

 財務諸表は、企業の利害関係者が企業の財政状態および経営成績に関する判断を行なうための基本的な情報を提供すべきものである。しかし今日の企業は複雑にして、かつ、高度な発展を遂げたので、貸借対照表および損益計算書だけでは、企業に対する正しい判断を行なうのに必要な情報をうることができない。このような事態に対処するための一つの方策としてスケジュールの制度が発達してきた。企業会計原則は、スケジュールの制度の一環として財務諸表付属明細表を財務諸表の体系の中にとり入れている。財務諸表付属明細表は、財務諸表における重要な科目について、期末残高の内訳若しくは期中の増減を明らかにするため、会計帳簿に基づいて作成されるものである。商法は、このような企業会計原則における財務諸表付属明細表を財務諸表の体系にとり入れることを明らかにすることが望ましい。
 この場合、問題になるのは、企業会計原則における財務諸表付属明細表と商法第二百九十三条の五に規定する計算書類付属明細書との関係である。既に述べたように、財産目録を財務諸表の体系から除外するとすれば、計算書類付属明細書は、財産目録に代って資産および負債の明細表としての役割を果すことが要請されることになる。したがって、計算書類付属明細書は、その内容、作成時期などを再検討し、商法の規定を改めることによって、財務諸表付属明細表と同一の役割を果しうるものとすることができるであろう。

3 営業報告書

 営業報告書は、一般に、営業の経過および会社の状況についての文書による報告であると解釈されている。かかる営業報告書は必ずしも会計帳簿に基づいて作成される報告書ではないので、これを財務諸表の体系から除くことが望ましい。
 なお、商法には、営業報告書についての具体的規定がなく、現に作成されている営業報告書は、その形式、内容ともに多種多様で統一を欠き、また営業報告書が財務諸表の関連書類としての性格をもあわせ有することにかんがみ、営業報告書の作成方法とその記載事項については、新たに規定を設けることが望ましい。

4 剰余金計算書

 企業における資本の構成が複雑化するに伴なって、利害関係者が企業の財政状態および経営成績について正しい判断を行なうのに必要な情報を得られるように、剰余金の変動に関する報告書としての剰余金計算書を財務諸表の体系のうちにとり入れることが必要になってきた。特に、毎期の経営成績を正確に報告することをもって、損益計算書の基本的な目的と考える企業会計原則の建前では、当期の営業上の純利益と留保された利益の変動とを区別するために、損益計算書のほかに利益剰余金に関する計算書が必要になってくることはいうまでもない。
 したがって、商法においても、利害関係者が企業の財政状態および経営成績について正しい判断を行なうことができるように、剰余金計算書の制度又は剰余金計算の観念をとり入れることが望ましい。

5 剰余金処分計算書

 「準備金及利益又ハ利息ノ配当ニ関スル議案」には、「準備金及利益ノ配当」という剰余金の処分に関するものと、「利息ノ配当」という剰余金の処分ではないものとが含まれている。したがって、同議案から「利息ノ配当」に関するものを除いた部分は、本質的には、剰余金処分計算書と同一のものである。もっとも財務諸表規則による剰余金処分計算書は、既に確定された剰余金の処分に関するものであるのに対して、商法の規定するのは、いまだ株主総会において承認を得ない未確定のものである。このような違いは、もっぱら、商法が利益処分案を株主総会の決議事項としていることに基づくのであって、両者の間には本質的な差異は認められない。
 よって、商法は「準備金及利益又ハ利息ノ配当ニ関スル議案」の中から、「利息ノ配当」に関するものを除いた部分を、剰余金処分計算書として財務諸表の体系にとり入れることを明らかにすることが望ましい。
 企業会計原則と税法

 法人税法第十八条第六項および第七項は、法人等が確定申告書に添付すべき書類として、次の四つのものをあげている。

 財産目録
貸借対照表
損益計算書
法人税法第六条及び第九条乃至第十二条の規定により計算した各事業年度の所得金額の計算に関する明細書並びに当該所得に対する法人税額の計算に関する明細書

 しかし、このうち最後に掲げるものは税法独自の書類であるので、これを除く財産目録、貸借対照表および損益計算書をもって、法人税法における財務諸表の体系とみることができる。法人税法における財務諸表の体系が、このように、企業会計原則と食い違いがあるのは、主として、法人税法が商法の規定を考慮に入れていることによるものと考えられるので、商法の改正に即応して改めることが望ましい。

連続意見書第ニ 財務諸表の様式について

 財務諸表の様式の統一

 企業が株主総会に提出するため、有価証券の発行の届出ならびにそれ以後の報告に際して大蔵大臣に提出するため、租税目的によって税務当局に提出するため、その他信用目的などのために、財務諸表を作成する場合、その目的の異なるに従って財務諸表の様式が多少異なることはやむを得ないとしても、基本的には統一された様式によることが望ましい。しかしながら、現在、企業が商法、証券取引法および税法の規定に基づいて作成する財務諸表の様式は、必ずしも同一でなく、このため、企業会計の実務に種々の支障を来たしている現状である。よってこれらの財務諸表の様式を企業会計原則に基づく様式に一致せしめて、できるだけこれを統一することが望ましい。
 財務諸表規則による財務諸表の様式

 証券取引法の規定に従って大蔵大臣に提出する財務諸表の様式は、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則によって詳細に定められている。その標準様式は、企業会計原則に基づく財務諸表の標準様式と原則的には同様であって、特に顕著な差異は認められない。
 商法による財務諸表の様式

 すべての株式会社は、商法の規定によって、貸借対照表と損益計算書を含む計算書類を株主総会に提出し、その承認を得なければならない。しかしながら、これらの様式については、商法中改正法律施行法(昭和十三年法律第七十三号)第四十九条により、「株式会社ノ財産目録、貸借対照表及損益計算書ノ記載方法其ノ他ノ株式ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定されているにもかかわらず、現在に至るまで、命令の制定がないので、よるべき基準が存在しない状態にある。したがって、なるべくすみやかに財務諸表の様式が制定されることが望ましいが、この場合、企業会計原則ならびに財務諸表準則を尊重し、少なくとも、次の諸点を考慮する必要がある。

(一) 財務諸表の様式を制定するに当たっては、株式会社の規模の大小、業務の相違等の事情を考慮に入れる必要があると思われるが、少なくとも、株主および債権者等の利害関係者に対する重要な資料としての財務諸表の意義にかんがみ、財務諸表に適正な区分を設け、かつ、明りょうに科目を分類して、企業の財政状態および経営成績に関する真実な報告を提供しなければならない。

(二) 右の点を考慮し具体的に問題となるべき事項としては、次のようなものをあげることができる。

1 貸借対照表については、資産、負債および資本の三区分を設け、それぞれ、その営業に適した科目をもって正しく分類し、かつ、資産については、流動資産、固定資産および繰延勘定を区分し、また負債については、流動負債と固定負債を区分するものとし、その配列は流動性配列によること。なお、資本の部に関しては資本金と剰余金を明りょうに区別し、特に、当期純利益を明示すること。

(1) 流動資産の区分に属する科目は、少なくとも、次のように細分すること。

  現金預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品、その他の流動資産

  なお、受取手形と売掛金につき、貸倒引当金を設けているときは、貸倒引当金を受取手形および売掛金から控除する形式によって表示すること。

(2) 固定資産の区分は、有形固定資産、無形固定資産ならびに投資に分かち、これに属する科目は、少なくとも、次のように細分すること。

  有形固定資産としては、建物、構築物、機械装置、船舶、車両運搬具、工具器具備品、土地、建設仮勘定、その他の有形固定資産

  無形固定資産としては、営業権、特許権、地上権、商標権、実用新案権、意匠権、鉱業権、その他の無形固定資産

  投資としては、会計会社有価証券、投資有価証券、出資金、長期貸付金、その他の投資

  なお、有形固定資産の減価償却については、減価償却費の累計額を減価償却引当金として、当該固定資産から控除する形式によって表示すること。

(3) 繰延勘定の区分に属する科目は、少なくとも、次のように細分すること。

   前払費用、創業費、株式発行費、社債発行差金、開発費、試験研究費、建設利息、その他の繰延勘定

(4) 流動負債の区分に属する科目は、少なくとも、次のように細分すること。

  支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、引当金、未払費用、前受金、預り金、前受収益、その他の流動負債

(5) 固定負債の区分に属する科目は、少なくとも、次のように細分すること。

  社債、長期借入金、関係会社借入金、引当金、その他の固定負債

(6) 資本金の区分に属する科目は、次のように区分して記載すること。

  普通株資本金、優先株資本金

(7) 剰余金の区分に属する科目は、資本剰余金と利益剰余金に分かち、次のように区分して記載すること。

  資本剰余金としては、資本準備金、再評価積立金、その他の資本剰余金

  利益剰余金としては、利益準備金、任意積立金、当期未処分利益剰余金

2 損益計算書は、少なくとも、営業損益計算と純損益計算に関する区分を設け、営業損益計算の区分には、株式会社の主たる営業活動による収益と費用を、また、純損益計算の区分には主たる営業活動以外の原因から生ずる損益を記載すること。
 この場合、営業損益計算の区分は、売上高、売上原価、一般管理費及び販売費に分かち、また、純損益計算の区分は、営業収益と営業外費用に分かって、それぞれ、内容を正しく示す名称を付して、収益ならびに費用を示すこと。

3 剰余金計算書は、利益剰余金計算の部と資本剰余金計算の部に区別し、それぞれの変動を明示すること。この場合、それぞれの部を、利益剰余金計算書ならびに資本剰余金計算書として作成することができる。
 なお、利益剰余金計算の区分においては、未処分利益剰余金の増減を示すものとし、前期未処分利益剰余金から前期利益剰余金処分額を控除し、これに期間中の繰越利益剰余金増減高を加減して、繰越利益剰余金期末残高を算定し、更に、当期純利益を加えて当期未処分利益剰余金を表示すること。
 剰余金計算書を独立の財務諸表として作成しない場合には、資本剰余金と利益剰余金の変動に関する記載を明りょうに行なうものとし、これを次のように示すこと。

(1) 資本剰余金については、前期末残高、期中増減高および当期末残高を、貸借対照表の資本の区分に示すこと。

(2) 利益剰余金の変動については、損益および利益剰余金結合計算書を作成し、損益計算書によって当期純利益を正しく算定表示したのち、剰余金計算書における利益剰余金の記載にならって前記未処分利益剰余金、前期利益剰余金処分額、繰越利益剰余金増減高を記載して、繰越利益剰余金期末残高を算定し、これを当期純利益に加えて、最終項目として当期未処分利益剰余金を明示すること。

4 剰余金処分計算書においては、当期未処分利益剰余金から各種の利益処分の内容を明りょうに示して利益剰余金処分額を控除し、次期繰越利益剰余金を表示すること。
 なお、欠損填補を行なった場合には、当期未処理欠損金から各種の剰余金取崩の内容を明りょうに示して欠損金処理額を控除するものとし、当期において欠損を填補できなかった場合には、次期繰越欠損金を表示すること。

5 財産評価の基準(固定資産に関する減価償却の方法を含む。)その他重要な事項は、財務諸表の適当な個所に明示すること

6 財務諸表に記載される重要な科目、たとえば、固定資産および減価償却費、有価証券、貸付金、借入金、資本金等については、特に付属明細表を作成し、期間中の変動その他、他の財務諸表によっては明示しがたい事項を記載すること。
 税法による財務諸表の様式

 法人税法第十八条第六項および第七項の規定に従い、法人等が確定申告書を提出する場合、財産目録、貸借対照表および損益計算書を添付しなければならないが、これらの財務諸表のよるべき様式については、法人税法は別段の規定を行なっていない。したがって、企業会計原則に準拠して作成した財務諸表を、確定申告書の添付書類とすることができるものと解釈される。しかしながら、税法では、未収差益、債権償却引当金、価格変動準備金のような項目を計上すべき区分につき、特に規定しているため、財務諸表に記載さるべき個々の項目とその金額に関し、企業会計原則の主張するところと食い違いのあるものが少なくない。よって、財務諸表の様式を統一するためには、より根本的な問題に関する調整を図ることが必要である。

連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について

第一 企業会計原則と減価償却

 企業会計原則の規定

 減価償却に関する企業会計原則の基本的立場は、貸借対照表原則五の2項に左のごとく示されている。
 「資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、その取得原価を当該固定資産の耐用期間にわたり、一定の減価償却方法によって各事業年度に配分し、無形固定資産及び繰延資産は、有償取得の対価を一定の償却方法によって各事業年度に配分しなければならない。」
 これによって明らかなように、減価償却は、費用配分の原則に基づいて有形固定資産の取得原価をその耐用期間における各事業年度に配分することである。
 減価償却と損益計算

 減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行なうことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることである。このためには、減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的、規則的に実施されねばならない。利益におよぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、右に述べた正規の減価償却に反するとともに、損益計算をゆがめるものであり、是認し得ないところである。
 正規の減価償却の手続によって各事業年度に配分された減価償却費は、更に原価計算によって製品原価と期間原価とに分類される。製品原価に分類された減価償却費は製品単位ごとに集計され、結局は売上原価と期末棚卸資産原価とに二分して把握される。このうち売上原価に含まれる部分は、期間原価として処理される減価償却費とともに当期の収益に対応せしめられるが、期末棚卸資産原価に含まれる部分は翌期に繰り延べられ、翌期以降の収益に対応せしめられることになる。
 臨時償却、過年度修正

 減価償却計画の設定に当たって予見することのできなかった新技術の発明等の外的事情により、固定資産が機能的に著しく減価した場合には、この事実に対応して臨時に減価償却を行なう必要がある。この場合生ずる臨時償却費は、所定の計画に基づいて規則的に計上される減価償却費と異なり原価性を有しないとともに、過年度の償却不足に対する修正項目たるの性質を有するから、これを剰余金計算書における前期損益修正項目として処理する。
 一般に、過年度の減価償却について過不足が認められる場合には、これに対して修正を加えなければならない。かかる修正は、これを剰余金計算書における前期損益修正項目として処理する。
 なお、災害、事故等の偶発的事情によって固定資産の実体が滅失した場合には、その滅失部分の金額だけ当該資産の簿価を切り下げねばならない。かかる切下げは臨時償却に類似するが、その性質は臨時損失であって、減価償却とは異なるものである。
 固定資産の取得原価と残存価額

 減価償却は、原則として、固定資産の取得原価を耐用期間の各事業年度に配分することであるから、取得原価の決定は、減価償却にとって重要な意味を有する。固定資産の取得にはさまざまの場合があり、それぞれに応じて取得原価の計算も異なる。

1 購入 固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等の付随費用を加えて取得原価とする。但し、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。
  購入に際しては値引又は割戻を受けたときには、これを購入代金から控除する。

2 自家建設 固定資産を自家建設した場合には、適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し、これに基づいて取得原価を計算する。建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。

3 現物出資 株式を発行しその対価として固定資産を受け入れた場合には、出資者に対して交付された株式の発行価額(商法第百六十八条および第二百八十条の二にいわゆる現物出資の目的たる財産の価格に当たる額)をもって取得原価とする

4 交換 自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には、交換に供された自己資産の適正な簿価をもって取得原価とする。
 自己所有の株式ないし社債等と固定資産を交換した場合には、当該有価証券の時価又は適正な簿価をもって取得原価とする。

5 贈与 固定資産を贈与された場合には、時価等を基準として公正に評価した額をもって取得原価とする。
 固定資産の取得原価から耐用年数到来時におけるその残存価額を控除した額が、各期間にわたって配分されるべき減価償却総額である。残存価額は、固定資産の耐用年数到来時において予想される当該資産の売却価格又は利用価格である。この場合、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、これを売却価格又は利用価格から控除した額をもって残存価額とする。
 なお、固定資産の取得時以後において著しい貨幣価値の変動があった場合および会社更生、合併等の場合には、当該固定資産の再評価を行ない、これによって減価償却の適性化を図ることが認められることがある。
 費用配分基準と減価発生の原因

 固定資産の取得原価から残存価額を控除した額すなわち減価償却総額は、期間又は生産高(利用高)のいずれかを基準として配分される。およそ固定資産は土地のような非償却資産を除くと、物質的原因又は機能的原因によって減価し、早晩廃棄更新されねばならない状態に至るものである。物質的減価は、利用ないし時の経過による固定資産の磨滅損耗を原因とするものであり、機能的減価は、物質的にいまだ使用に耐えるが、外的事情により固定資産が陳腐化し、あるいは不適応化したことを原因とするものである。
 減価が主として時の経過を原因として発生する場合には、期間を配分基準とすべきである。これに対して、減価が主として固定資産の利用に比例して発生する場合には、生産高を配分基準とするのが合理的である。
 減価償却計算法

1 期間を配分基準とする方法

 期間を配分基準とする減価償却計算の根本問題は、耐用年数の決定に存するが、これが決定されている場合、各事業年度の減価償却費を計算する方法として次のごときものがある。

 定 額 法
 定 率 法
 級 数 法
 償却基金法

 償却基金法に類似する方法に年金法がある。年金法においては、減価償却引当金累計は減価償却総額に一致するが、減価償却費には利子が算入されるから減価償却費の累計は利子部分だけ減価償却総額を超過する。このように年金法は利子を原価に算入する方法であるため、一般の企業においては適用されていない。しかしながら、利子を原価に算入することが法令等によって認められている公益企業においては、この方法を用いることが適当であると考えられる。

2 生産高を配分基準とする方法

 生産高(利用高)を配分基準とする方法には生産高比例法がある。この方法は、前述のように、減価が主として固定資産の利用に比例して発生することを前提とするが、このほか、当該固定資産の総利用可能量が物質的に確定できることもこの方法適用のための条件である。かかる制限があるため、生産高比例法は、期間を配分基準とする方法と異なりその適用さるべき固定資産の範囲が狭く、鉱業用設備、航空機、自動車等に限られている。
 なお、生産高比例法に類似する方法に減耗償却がある。減耗償却は、減耗性資産に対して適用される方法である。減耗性資産は、鉱山業における埋蔵資源あるいは林業における山林のように、採取されるにつれて漸次減耗し涸渇する天然資源を表わす資産であり、その全体としての用役をもって生産に役立つものでなく、採取されるに応じてその実体が部分的に製品化されるものである。したがって、減耗償却は減価償却とは異なる別個の費用配分法であるが、手続き的には生産高比例法と同じである。
 取替法

 同種の物品が多数集まって、一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産に対しては、取替法を適用することができる。取替法は、減価償却法とは全く異なり、減価償却の代りに部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法である。取替法の適用が認められる資産は取替資産と呼ばれ、軌条、信号機、送電線、需要者用ガス計量器、工具器具等がその例である。
 耐用年数の決定

 固定資産の耐用年数は、物質的減価と機能的減価の双方を考慮して決定されねばならない。物質的減価は技術的に比較的正確に予測されうるが、機能的減価は偶然性を帯び、これを的確に予測することがはなはだ困難である。このために、従来、耐用年数は主として物質的減価を基礎として決定され、機能的減価はあまり考慮されないのが実情であった。しかしながら、今日のように技術革新がめざましい勢いで進行しつつある時代においては、機能的減価を軽視することは許されない。したがって、今後における耐用年数の決定に際しては、機能的減価の重要性を認め、過去の統計資料を基礎とし、これに将来の趨勢を加味してできるだけ合理的に機能的減価の発生を予測することが要求される。耐用年数が決定されたのちに、その耐用年数の前提条件となっている事項が著しく変化した場合には、これに応じて当該耐用年数を変更しなければならない。耐用年数の変更は、将来に影響するばかりでなく、原則として前期損益修正を必要ならしめる。
 一般的耐用年数と個別的耐用年数

 固定資産の耐用年数には、一般的耐用年数と企業別の個別的耐用年数とがある。一般的耐用年数は、耐用年数を左右すべき諸条件を社会的平均的に考慮して決定されたもので、固定資産の種類が同じであれば、個々の資産の置かれた特殊的条件にかかわりなく全国的に画一的に定められた耐用年数である。これに対して、個別的耐用年数は、各企業が自己の固定資産につきその特殊的条件を考慮して自主的に決定したものである。元来、固定資産はそれが同種のものであっても、操業度の大小、技術水準、修繕維持の程度、経営立地条件の相違等によってその耐用年数も異なるべきものである。現在、わが国では税法の立場から定められた一般的耐用年数のみが行なわれているが、上述の理由により、企業を単位とする個別的耐用年数の制度を確立し、わが国の減価償却制度を合理化する必要がある。
 個別償却と総合償却

 個別償却は、原則として、個々の資産単位について個別的に減価償却計算および記帳を行なう方法である。個別償却では、耐用年数の到来する以前に資産が除却されるときは、当該資産の未償却残高は除却損として処理される。これに対して、固定資産が耐用年数をこえて使用される場合には、耐用年数終了のときに既に未償却残高がなくなっているから、それ以後の使用に対して減価償却を計上する余地は存在しない。
 総合償却には二種の方法がある。その一つは、耐用年数を異にする多数の異種資産につき平均耐用年数を用いて一括的に減価償却計算および記帳を行なう方法であり、いま一つは、耐用年数の等しい同種資産又は、耐用年数は異なるが、物質的性質ないし用途等において共通性を有する幾種かの資産を一グループとし、各グループにつき平均耐用年数を用いて一括的に減価償却計算および記帳を行なう方法である。
 総合償却のもとでは、個々の資産の未償却残高は明らかでないから、平均耐用年数の到来以前に除去される資産についても、除却損は計上されないで、除却資産原価(残存価額を除く。)がそのまま減価償却引当金勘定から控除される。このため総合償却法では、平均耐用年数の到来以後においても、資産が残存する限りなお未償却残高も残存し、したがって、減価償却費の計上を資産がなくなるまで継続して行ないうるのが通常である。
十一 減価償却引当金

 毎期の減価償却額はこれを固定資産価額から直接控除しないで、減価償却引当金勘定に記入する。減価償却引当金勘定は、個別償却の場合には、個々の資産単位ごとに、また総合償却の場合には、多数資産の総合単位ないしグループ単位ごとにこれを設定する。
 固定資産が除却され、あるいは滅失した場合には、当該固定資産の減価償却引当金は個別償却法又は総合償却法に従って取り崩される。減価償却引当金は評価性引当金であるから、その残高は、これを固定資産取得原価から控除する形式で貸借対照表に記載する。

第二 商法と減価償却

 財産評価規定と減価償却

 商法の条文のうち減価償却に関係あるものは、固定資産の評価に関する次の二条である。

第三十四条 財産目録ニハ動産、不動産、債権其ノ他ノ財産ニ価額ヲ附シテ之ヲ記載スルコトヲ要ス其ノ価額ハ財産目録調製ノ時ニ於ケル価格ヲ超ユルコトヲ得ズ
 営業用ノ固定財産ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ取得価額ヨリ相当ノ減損額ヲ控除シタル価額ヲ附スルコトヲ得

第二百八十五条 財産目録ニ記載スル営業用ノ固定財産ニ付テハ其ノ取得価額又ハ製作価額ヲ超ユル価額、取引所ノ相場アル有価証券ニ付テハ其ノ決算期前一月ノ平均価格ヲ超ユル価額ヲ附スルコトヲ得ズ

 第二百八十五条の固定財産の評価に関する条文の解釈については、商法学者の間に意見の対立がみられる。本条をもって第三十四条第二項を受ける規定と解するものは、本条の取得・製作価額は当然に減価償却費を控除した価額でなければならず、固定財産について評価益を計上することはできないと主張する。
 これに対して本条をもって独立の規定と解するものは、いったん減価償却した後に時価が上れば、償却額を元にもどして取得・製作価額まで評価を高めることができると論ずる。後者は企業会計原則と全く相いれない解釈であるが、かかる見解が存在するのは、ひっきょう、商法の固定財産の評価および減価償却に関する規定がはなはだしく不備であるからにほかならない。
 ところで、これら二つの解釈のうち前者をとるとしても、これによって直ちに費用配分の原則に基づく正規の減価償却の観念が商法に存することにはならない。
 けだし、第三十四条第二項の規定の文言からいえば、取得原価から控除されるべき相当の減損額は、正規の減価償却の方法によらなくてもこれを評価することができると解釈される余地があるからである。たとえば、有形固定資産の物的損耗が現実に認められた場合にのみ、その損耗の程度を測定して減損額を評価すれば足りると解することも可能である。正規の減価償却にあっては、損耗が現実に認識されると否とにかかわらず、一定の減価償却計画に基づいて取得原価を計画的に費用化させてゆくが、上記の解釈による場合には、減損額は企業の判断によってそのつどしかるべく評価されるわけである。第三十四条第二項にいわゆる「相当ノ減損額ヲ控除」するとは、かかる任意、不規則の評価方式を意味するものと解されるおそれが大である。
 減価償却と損益計算

 減価償却は、財産評価の問題であると同時に損益計算の問題である。すなわち、減価償却は、減価償却引当金の繰入を通じて財産評価に関係するとともに、減価償却費の計上を通じて損益計算に関係するのである。商法第二百八十八条にいわゆる毎決算期の利益は、正規の手続に従って減価償却費が計上されるときにはじめて正しく計算される。減価償却費が過大又は過少である限り、毎決算期の利益は過少又は過大となり、配当可能利益の大きさもゆがめられることになる。
 減価償却費には、所定の計画に従い規則的に計上されるものと、計画の設定に当たって予見することのできなかった特殊事情等に基づいて臨時的に計上されるものとがある。企業会計原則は、毎決算期の経営成績を明らかならしめるために、当期純利益の算定に当たり計画的、規則的減価償却費を費用に計上し、臨時償却費はこれを繰越利益剰余金から控除する立場をとっている。商法においてもこの立場を尊重することが望ましい。
 商法改正に対する要望

 以上の考察に基づき、商法改正に際しては、次の諸点を考慮することが望ましい。

1 費用配分の原則に基づく正規の減価償却の観念を商法上確立するために、固定資産の評価に関する規定において、償却資産たる有形固定資産の評価に関しては正規の減価償却手続に従わねばならないことを明らかにすること。

2 正規の減価償却手続を含む適正な期間損益計算を基礎として、毎決算期の利益が算定されるべきことを明らかにすること。

第三 税法と減価償却

 税法上の減価償却

 税法上の減価償却は、減価償却額の計算について法令をもって詳細に規定していること、減価償却額は法定限度内において法人が任意に決定できることとしていること、の二点を主要な特色とする。

1 減価償却額の計算の法定

 法人税法第九条の八は、課税所得の計算上損金に算入する減価償却額の計算については命令で定める旨の包括的規定を設け、これを受けて、法人税法施行規則(以下「施行規則」という。)第二十一条ないし第二十一条の六および法人税法施行細則(以下「施行細則」という。)第三条ないし第八条は、減価償却の対象となる、償却の方法、償却範囲等について、また固定資産の耐用年数等に関する省令および同別表は、機械および装置ならびに機械および装置以外の有形固定資産の種類別、構造別又は用途別耐用年数について、それぞれ細部にわたって一律に規定している。しかし、経済政策上の理由又は法人の個別的事情を考慮する必要に基づいて、租税特別措置法第四十二条以下の規定により特別償却を認め、また施行規則第二十一条の二の規定により、耐用年数の短縮および増加償却の承認を講じうることとしている。

2 法定限度内の任意償却

 右のように、税法は、減価償却の計算について一律的に規定し償却範囲額を法定しているのであるが、その反面、施行規則第二十一条および施行細則第三条の規定により、法定償却範囲額の限度内では法人は任意に減価償却額を決定することができる(その決定は確定した決算においてしなければならない。法人税取扱通達三一五)こととしている。
 税法上の減価償却に対する要望

 正規の減価償却の見地から、税法においても任意償却制度を改め、企業が正規の減価償却制度を採用することを促進するように規定を改めるべきである。かかる制度を前提として、税法上の減価償却に対する具体的意見を述べれば次のとおりである。

1 残存価額

 施行規則第二十一条の三第四項は、坑道以外の有形固定資産の残存価額は取得価額の百分の十に相当する金額とする旨規定しているが、残存価額は、個々の資産によって異なる場合があるから、このように一律に定めず個々の資産の特殊性を考慮して実情に即するように規定を改めるべきである。

2 耐用年数

 施行規則第二十一条の二第一項ならびに固定資産の耐用年数等に関する省令および同別表により耐用年数を定め、特別の場合(特別償却ならびに増加償却および耐用年数の短縮を承認する場合)を除いて、この法定耐用年数によることを一律に強制しているが、もともと固定資産は、操業度の大小、技術水準、修繕維持の程度等のいかんによって耐用年数を異にするものであるから、標準耐用年数表を発表して法人に一応の基準を示すにとどめ、耐用年数の決定は、税務当局の承認を条件として法人の自主的判断を認めることとすることが望ましい。
 なお、産業政策の一環として、租税特別措置法の規定により、合理化機械等の初年度二分の一特別償却、重要機械等の三年間五割増特別償却など十数項目の特例が認められている。かかる特別償却制度については、企業の適正な期間損益計算を阻害しないように配慮することが望ましい。

3 償却の方法

 施行規則第二十一条の三第一項は、償却の方法として、定額法、定率法のうちいずれか一つによるものとし、同条第二項は、特に鉱業用の固定資産のうち坑道については、生産高比例法によらなければならないが、その他の鉱業用固定資産については、定額法、定率法のほか生産高比例法によることができることとしている。しかし、償却の方法は、これら三種に限定することなく、一般に認められているその他の償却方法をも選択することができることとすべきである。

4 総合償却

 法人税取扱通達二二〇、二二一および二二二は、総合償却法又は分別償却法により償却される固定資産のほか個々の資産について、償却額、未償却残高、除却損益等を計上しなければならない旨を定めているが、もともと、総合償却法(「分別償却法」を含む。)においては、個々の資産の償却額や未償却残高は明らかにならない建前であり、従って除却損益を除却時に計上することもないはずである。現行のように、個々の資産について償却額を按分して割り当て除却時に除却損益を計上するのでは、個別償却法と異なるところなく総合償却法の趣旨に反するから、これを改めるべきである。ちなみに、「分別償却法」は、総合償却法の一種と考えられるから、ことさらに、「分別償却法」なる概念を設けないこととし施行規則第二十一条の四の規定等を改めることが望ましい。
 なお、総合償却法を適用する資産の範囲が限定されている点についても検討を加え、たとえば、建物、構築物、車両、運搬具等について総合償却をなしうるように規定を改めるべきである。

連続意見書第四 棚卸資産の評価について

第一 企業会計原則と棚卸資産評価

 企業会計原則における棚卸資産評価原則

 企業会計原則は、原価主義を資産評価の一般原則とし、棚卸資産についても原則として取得原価に基づく評価を要求している。取得原価としては実際購入原価又は実際製造原価をとることを建前とするが(企業会計原則第三、五、A)、必ずしも文字どおりの実際原価には拘泥せず、原価計算の基準および一定の原価計算方法に基づき、標準価格又は予定価格を適用して算定した製造原価をも取得原価とする旨を企業会計原則注解(以下注解という。)十八において明らかにしている。
 原価主義を具体的に適用するための評価基準、すなわち、取得原価基準に関して、企業会計原則は、「先入先出法、後入先出法、平均原価法等によって取得原価を算定することが困難な場合には、基準棚卸法、小売棚卸法等による一定の棚卸評価基準を採用することができる。」と述べている。
 「先入先出法、後入先出法、平均原価法等」の「等」には、個別法などが含まれ、「基準棚卸法、小売棚卸法等」の「等」には、修正売価法、金額後入先出法、拘束在高法などが含まれるものと解釈される。基準棚卸法、小売棚卸法(取得原価基準に属する小売棚卸法)等は、特殊な業種によって用いられる取得原価基準の評価方法、又は価格の変動を考慮に入れた修正取得原価基準の評価方法である。
 注解十八が原価計算の基準および一定の原価計算方法に基づき、標準価格又は予定価格を適用して算定した製造原価をも取得原価とするというのは、生産品の取得原価を適正な標準原価又は予定原価(原価要素の価格のみならず、消費量をも標準又は予定で計算した原価)で貸借対照表に表示することを認める趣旨である。
 企業会計原則は、また「棚卸資産については、その時価が取得原価よりも下落した場合には時価によって評価することができる。」と述べ、(企業会計原則第三、五、A、第二項)、原価主義に対する例外としての低価主義を容認している。
 取得原価基準

1 費用配分の原則

 貸借対照表における棚卸資産の評価基準には、取得原価基準、低価基準および時価基準が存在するが、適正な期間損益算定の見地からすれば、決算貸借対照表における評価基準としては、取得原価基準を採用しなければならない。
 取得原価基準は、棚卸資産の取得に際して会計帳簿に記録された実際購入原価又は実際製造原価を基礎とし、これに各種の原価配分方法を適用することによって、期間中の払出棚卸資産原価を算定するとともに期末棚卸資産原価を算定し、後者をもって期末棚卸資産の評価額とする評価基準である。
 適正な期間損益の算定にとっては、一般に、購入又は生産した棚卸資産の取得原価を一期間の実現収益に合理的に対応させることが必要である。実現収益に対応する棚卸資産原価を確定するためには、棚卸資産の取得(購入又は生産)に要した現金支出額又はその等価額(すなわち取得原価)を分類、集計し、これを払い出された棚卸資産と未払出しの棚卸資産とに配分する手続をとり、販売のために払い出された棚卸資産への配分額を把握しなければならない。この原価額をもって実現収益に対応する費用とし、未販売の棚卸資産に配分された支出額はこれを将来の期間の費用として繰り越すのである。このような資産原価の期間配分手続をささえる根本思考を費用配分の原則と称する。費用配分の原則にしたがい、棚卸資産の取得に要した支出額が当期の費用たる部分と将来の期間の費用となる部分とに配分され、後者が決算貸借対照表に棚卸資産として記載されるのである。
 棚卸資産は、このように、支出の結果を表現したものにほかならない。棚卸資産の貸借対照表価額は、貸借対照表日における即時換金額をあらわさなければならないとし、または、貸借対照表日現在の棚卸資産を通常の営業過程において販売する場合の正味実現可能価額をあらわさなければならないとし、あるいは、貸借対照表日における再買原価又は再造原価をあらわさなければならないとする考え方すなわち時価主義は、財産貸借対照表の概念から導き出された評価思考であって、適正な期間損益算定を目的とする決算貸借対照表には適用され得ない。時価主義による評価を行なうならば、一期間の損益が他の期間に帰属すべき損益によってゆがめられる結果がもたらされるのである。
 棚卸資産の取得原価を期間配分するための具体的方法としては、先入先出法、各種の平均法、後入先出法、個別法等がある。これらの方法によって、棚卸資産の取得原価は払出棚卸資産原価(材料費、売上原価など)と未払出棚卸資産原価(一時点における手持材料原価、手持仕掛品原価、手持製品原価)とに配分されるのである。
 各企業は期間損益の適正な算定を指導原理とし、企業の性質、棚卸資産の性質・種類、物的移動の実情、採用する原価計算の方法等を考慮にいれて期間配分の方法を選択しなければならない。注解十八は「必要に応じ、棚卸資産の種類によって異なる棚卸方法(本意見書における棚卸資産原価の配分方法を意味する。)を選択適用することができる。たとえば原材料に先入先出法を適用し、半製品に平均原価法を適用するというような場合はその例である。」と述べているが、原材料をその性質によって細分し、たとえば価格変動の著しいものには後入先出法、価格の安定的なものには先入先出法、重要性のないものには総平均法を適用するというような選択方針も許される。合理的判断に基づいて一たん選択した方法は、著しい事情の変化がない限りこれを継続的に適用すべきである。
 棚卸資産はそれが利用又は処理されるまで取得原価をもって記録され、利用又は処分されたときにその原価を費用に配分することを原則とするが、損傷、品質低下等の原因により物質的欠陥を生じた棚卸資産又は陳腐化等の原因により経済的欠陥を生じた棚卸資産については、これらの資産を欠陥の生じた状態において新たに取得すると仮定した場合の取得原価をもって評価することが必要である。ただし、実際問題として新規の取得原価を推定することには著しい困難を伴なうことが多い。したがってその原始取得原価を、売価からアフター・コストを差し引いた価額(正味実現可能価額)又は売価からアフター・コストおよび正常利益を差し引いた価額まで切り下げることによって修正し、これをこの種の資産の新規取得原価とみなす方法が通常採用される。これに伴ない、原始取得原価の切捨額は利用又は処分に先だって費用に配分される。

2 予定原価の適用

 原価要素の価格の一部又は全部を予定で計算した生産品原価は、当該価格が適正に予定されており、その適用期間を通算して原価差額発生額が合理的に僅少である場合には、これを生産品の貸借対照表価額とすることが認められている。
 予定原価又は標準原価(原価要素の価格のみならず、消費量をも予定又は標準で計算した原価)を適用することによって把握された生産品原価も、当該原価が適正に決定されており、その適用期間を通算して原価差額発生額が合理的に僅少である場合には、これを生産品の貸借対照表価額とすることが認められている。注解十八にいう「原価計算の基準及び一定の原価計算方法に基き」算定された原価とは、予定又は標準が適正に決定され、原価差額が合理的に僅少であるという要件を満たす原価を意味する。
 かかる取得原価をもって棚卸資産の貸借対照表価額とする評価方法は、すなわち予定を利用する実際原価法、予定原価法、又は標準原価法は、取得原価基準に属するものとする(注1)。

3 修正売価の適用

 副産物の評価、農鉱産品等の特殊な棚卸資産の評価には、修正売価法の適用が認められている。
 修正売価法は、この種の棚卸資産の取得時又は期末における売価(あるいは正常売価)に基づいて算定した価額を取得原価とみなす方法である。売価に基づく取得原価は、売価からアフター・コストを差し引いた価額(正味実現可能価額)又は売価からアフター・コストおよび正常利益を差し引いた価額とするのが普通である。
 副産物にあっては、その取得原価の算定が原価計算技術上不可能であるから、修正売価による評価額を取得原価とみなし、その評価方法を取得原価基準に属するものとする。副産物を取得時に評価し、したがって、一期間中に異なる評価額で受入れが記録される場合には、これに先入先出法、平均法、その他の原価配分方法を適用して求めた金額をもってこの種の棚卸資産の貸借対照表価額とする(注2)。
 農産品(米麦等)については、政府買入価格が公表される関係上、その売価が確定していること、費用がジョイント・コストとして発生するために生産品原価の計算が必ずしも容易でない上に、原価計算能力をもたない小規模経営が多いことなどの理由に基づき、期末の手持品(成長途上のものを含む。)の評価に修正売価を適用することが認められている。
 鉱産品中の貴金属についても、安定的な市価による確実な市場が存在するなどの理由に基づき、その期末手持品の評価に修正売価を適用することが少なくない。
 農鉱企業にあっても、なるべく原価計算方式による生産原価の把握に努め、期末資産の原価評価を実行すべきであるが、修正売価の適用が容認される理由は、実際問題として対象資産の期末手持量が僅少であって、きわめて短時日のうちにすべてが販売される実情にあるため、修正売価を適用しても適正な期間損益計算を著しくゆがめない結果がもたらされることにある。

4 売価還元原価法

 取得品種のきわめて多い小売業および卸売業における棚卸資産の評価には、売価還元法(小売棚卸法又は売価棚卸法ともいう。)の適用が認められている。売価還元法は、一品目ごとの単位原価をもって棚卸資産を評価することが困難なこの種の企業において、棚卸資産のグループごとにその売価合計額から取得原価の合計額を概算する方法である。
 すなわち売価還元法にあっては、商品の自然的分類(形状、性質、等級等の相違による分類)に基づく品種の差異をある程度無視し、異なる品目を値入率、回転率の類似性にしたがって適正なグループにまとめ、一グループに属する期末商品の売価合計額に原価率を適用して求めた原価額を期末商品の貸借対照表価額とする(当該商品グループの期首繰越原価と当期受入原価総額の合計からこの期末商品原価を差し引くことによって当期の費用に配分される商品原価すなわち売上原価を求めるのである。)。原価率の計算は次の算式による。原      期首繰越商品原価+当期受入原価総額 価=―――――――――――――――――――――――――――――― 率 期首繰越商+当期受入+原 始+値上額-値 上-値下額+値 下   品小売価額 原価総額 値入額     取消額     取消額  この原価率を適用する売価還元法によれば期末商品の総平均原価に相当する評価額が求められるので、これを売価還元平均原価法となづけ、取得原価基準に属する評価方法とする(注3)。
 期末商品の売価に小売価格指数その他の価格指数を適用することによってこれを後入先出原価で評価する方法を売価還元後入先出法となづけ、取得原価基準の属する評価方法とする。売価還元後入先出法は、金額後入先出法と本質的に同じものであり、これを実行するには価格指数の決定が必要である。以上の二つを総称して売価還元原価法となづける。
 売価還元法の利用は、必ずしも小売業および卸売業の場合に限られない。製品又は部品の品目数の膨大な製造工業(たとえば製薬工業、組立工業)において、製品又は部品の払出を一々単位原価で記録することが煩雑な場合に売価還元法を利用するのがその例である。

5 最終取得原価法

 最終取得原価法(購入品にあっては、最終仕入原価法又は最近仕入原価法、生産品にあっては、最終製造原価法又は最近製造原価法)は、最終取得原価をもって期末棚卸資産原価を算定する方法として利用されるほか、最近取得原価をもって払出原価を算定するとともに期末棚卸資産原価を算定する方法としても利用される。この方法によれば、期末棚卸資産の一部だけが実際取得原価で評価され、他の部分は時価に近い価額で評価される可能性が多い。したがって無条件にこの評価方法を純然たる取得原価基準に属する方法と解することは妥当でない。期末在庫量の大部分が正常的に最終取得原価で取得されている場合にのみこの方法を取得原価基準に属する評価方法とみなすことができるのである。かかる事情が正常的に存在する企業において最終取得原価法を採用する場合にも、期末棚卸資産の先入先出原価と最終取得原価との差異を確かめ、差異が僅少な場合を除き、相当の評価引当金を設定しなければならない(注4)。

6 基準棚卸法

 著しく価格変動の危険にさらされる棚卸資産を多く手持する業種にあっては、基準棚卸法(恒常在高法、正常在高法、最低在高法、基準在高法、固定在高法などともいう。)を適用することが是認される。この方法は後入先出法と同様に、価格変動によって生ずる棚卸資産損益を損益に顕現させないことを眼目とする評価方法である。この方法によれば、基準量を食い込む払出しが行なわれた場合には、払出原価は再調達原価等で算定されるので、後入先出法に比し、よりよくその目的を達成することができる。ただし、期末に食込みが生じていると、基準棚卸法は取得原価基準の評価方法から逸脱することになるので、払出しが仕入れ・生産によって順調に補充されるような在庫政策を実施し、この方法が取得原価基準から乖離することを防止するように努めなければならない。なお、基準量およびその評価額を決定するに当たっては、慎重な研究と判断を行ない、恣意性が介入しないように留意する必要がある(注5)。
 低価基準

1 原価時価比較低価法

 棚卸資産評価の一般原則たる原価主義に対する例外的な評価原則として低価主義が存在し、広く採用されている。低価主義を具体的に適用するための評価基準を低価基準となづける。
 低価基準は、価格変動に基づいて、期末棚卸資産の取得原価が時価をこえる事実が発生している場合には、時価をもって期末棚卸資産の評価額とし、取得原価が時価をこえていない場合には、取得原価をもって期末棚卸資産の評価額とする評価基準である。
 低価主義は、期間損益計算の見地からすると合理性をもたないが、しかしそれは広く各国において古くから行なわれてきた慣行的評価思考であり、現在でも実務界から広く支持されている。棚卸資産に低価基準を適用することによって、それが通常の営業過程においていくばくの資金に転化するかを示すことも、ある意味では有用である。各国の税法も低価基準の適用に伴う評価損を例外なく課税所得の計算上損金に算入する建前をとっている。このような事情のもとにおいて低価基準を全く否定し去ることはできない。したがって原価基準の例外として低価基準を採用することも容認される。
 低価基準を適用する場合における時価としては、決算時の売価からアフター・コストを差し引いた価額、すなわち正味実現可能価額が適当であるが、再調達原価をとることも認められる。再調達原価の代替として、最終取得原価(決算日に最も近い実際取得原価)又は売価からアフター・コストおよび正常利益を差し引いた価額をとることもある。決算時の正味実現可能価額を時価とする場合には、期末棚卸資産が次期に販売されるときにさらに売価が下がるかもしれないし、逆に上がるかもしれないので、評価切下げが過大又は過少となる欠陥があらわれる。一方、再調達原価を時価とする場合には、期末棚卸資産が次期に販売されたときに正常的には販売利益をもたらす点にまで当該棚卸資産の取得原価を切り下げてしまう欠点(販売時の売価が再調達原価を下回るときには販売損失を若干残す点までしか取得原価を切り下げ得ない欠点)があらわれる反面において、将来の売価が再調達原価に歩調を合わせて動く場合には、実質的に将来の予想売価を基礎とするのと同様な評価切下げを可能にさせる長所があらわれるのである。さらに購入品の時価としては再調達原価の方が把握しやすく、生産品の時価としては売価に基づく正味実現可能価額の方が把握しやすいという両者の長短も認められる。

 時価を把握すれば次の方法によって評価切下額が決定されるのである(注6)。

(1) 取得原価と正味実現可能価額を比較する方法

(2) 取得原価と再調達原価を比較する方法

(3) 取得原価、正味実現可能価額、再調達原価の三つを比較し、最低の価額をとる方法

 時価の選択および比較方法の選択に関する意思決定は、棚卸資産の種類・性質、手持量の大小、価格変動の特異性に応じて適正になされなければならない。
 低価基準の適用方法として、評価切下げ後の簿価を繰越棚卸資産の次期における取得原価とみなす方法があり、評価切下げ前の取得原価を繰越棚卸資産の次期における取得原価とする方法がある。前者は、一たん評価切下げを行なったならば評価額を再びもとの原始取得原価に戻さない方法であり、後者は、簿価いかんにかかわらず、常に原始取得原価と時価とを比較する方法である。
 後者の方法によれば、時価の反騰に応じて、前期以前に期間費用に配分された棚卸資産原価の一部又は全部を当期の収益に繰り戻す結果を生ずるが、低価基準をささえる保守主義の思考からすれば、時価の反騰を度外視する方法による低価法の方が妥当と考えられる(注7)。
 低価法適用上、棚卸資産の一品目ごとに原価時価比較を行なう方法をとるか、棚卸資産の各品目を適当なグループにまとめ、グループごとに原価時価比較を行なう方法をとるか、棚卸資産の全品目を一括して原価時価比較を行なう方法をとるかに関しては、企業の事情、棚卸資産の性質等に基づき、いずれの方法をとれば、期間損益を最も適正に表現することになるかという観点から、方法の選択を行なうべきである。たとえば、ある製品種類に使われる材料と当該製品種類の仕掛品および製品在庫はこれを一グループとして低価の事実の有無を見ることが妥当である。全品目を一括して原価時価比較を行なう方法は多くの場合妥当でない。
 低価基準を採用する限り、棚卸資産の全品目にわたって低価評価を実施することを建前とするが、重要な品目を選択し、これについてのみ低価評価を行ない、また時価低落の著しい品目に限って評価切下げを行なうことも、実務の便宜として許される(注8)。
 企業が一たん低価基準を採用した以上は、価格の低落によって棚卸資産原価の切下げを必要とする事態が発生している限り、低価評価を実行すべきである。評価切下げを必要とする事実を認識しながら、利益操作の目的で期によって評価切下げを適当な額にとどめたり、全く評価切下げを行なわなかったりすることは不当である。

2 売価還元低価法

 本意見書の第一、二、4に示した原価率の算式における分母から値下額および値下取消額を除外することによって計算した原価率を用いる売価還元法は、低価基準に属する評価方法として、これを売価還元低価法となづける。売価還元法を採用する企業が低価評価の目的を達するにはこの方法によることが是認されている。原価時価比較低価法は実行されていない。
 貨幣価値変動時における評価の特例

 貨幣価値が著しい低落を示す次期には、通常の取得原価基準に属する評価方法に代えて、(イ)基準棚卸法、(ロ)期末棚卸量に生じた不可避の食込みがその後補充されたときにその補充分につき原始原価を復活する後入先出法、(ハ)これに類似する拘束在高法等を採用し、貨幣価値変動から生ずる架空利益の排除に努めることが必要である。これらの方法の特徴は、期末棚卸量の評価額が逐次高い原価におきかえられることを防止することによって架空利益を排除することにある(注9)。
 貨幣価値変動時に適用される評価方法としてはさらに再調達原価法がある。この方法は、払出量ならびに期末棚卸量を再調達原価で評価し、取得原価との差額を資本修正勘定とするものである。貨幣価値の変動は棚卸資産の需給関係から生ずる価格変動と結合してあらわれるのであるから、純粋に貨幣価値の変動による架空損益を資本修正勘定として分離するには取得原価基準の原価額と一般物価指数による修正価額との差額を把握する方法を適用すべきである。
 取得原価の決定

1 購入品の取得原価

 購入棚卸資産の取得原価は、購入代価に副費(附随費用)の一部又は全部を加算することにより算定される。
 購入代価は、送状価額から値引額、割戻額等を控除した金額とする。割戻額が確実に予定され得ない場合には、これを控除しない送状価額を購入代価とすることができる。
 現金割引額は、理論的にはこれを送状価額から控除すべきであるが、わが国では現金割引制度が広く行なわれていない関係もあり、現金割引額は控除しないでさしつかえないものとする。
 副費として加算する項目は、引取運賃、購入手数料、関税等容易に加算しうる外部副費(引取費用)に限る場合があり、外部副費の全体とする場合がある。さらに購入事務費、保管費その他の内部副費をも取得原価に含める場合がある。加算する副費の範囲を一律に定めることは困難であり、各企業の実情に応じ、収益費用対応の原則、重要性の原則、継続性の原則等を考慮して、これを適正に決定することが必要である。
 副費を加算しないで、購入代価とは別途に処理し、期末手持品に負担させる金額を繰り越す場合には、これを貸借対照表には棚卸資産に含めて記載することが妥当である。
 購入に要した負債利子あるいは棚卸資産を取得してから処分するまでの間に生ずる資金利子を取得原価に含めるかどうかは問題であるが、利子は期間費用とすることが一般の慣行であるから、これを含めないことを建前とすべきである(注10)。

2 生産品の取得原価

(1) 完成品の取得原価

  生産品については適正な原価計算の手続により算定された正常実際製造原価をもって取得原価とする。販売費および一般管理費は取得原価に含めないのが通例であるが、一部の販売直接費はこれを取得原価に含めることを至当とする場合もある。長期請負工事を営む業種にあっては、半成工事への賦課又は配賦を通じて、販売費および一般管理費を完成工事の取得原価に算入することも認められる。製品の完成後から販売までの間に多額の移管費を要する場合には、これを取得原価に含めることもさしつかえない。
  直接原価計算制度を採用する企業にあっては製品の取得原価に固定製造費を含めないが、貸借対照表に記載する原価は固定費込みの原価とすべきである。
  標準原価又は予定原価をもって製品の取得原価とする場合において原価差額が生じた時には、差額が合理的に僅少な場合を除き、貸借対照表に記載する原価は、差額調整を行なったのちの原価とする。
  連産品については、等価係数によってジョイント・コストを各製品に分割し、当該原価額をもってそれぞれの取得原価とする。

(2) 副産物等の取得原価

  副産物については、適正な評価額をもってその取得原価とする。場合によっては、主副製品分離後における副産物加工費のみをもって取得原価とし、また一定の名目的評価額をもって取得原価とすることも認められる。
  くずの取得原価は副産物に準ずる。

(3) 仕掛品の取得原価

  期末仕掛品は、未完成の製造指図書、原価計算上の工程途中品および工程完了品(ただし、完成品であるものおよび半製品として受払するものを除く。)からなる棚卸資産である。
  未完成指図書によって代表される仕掛品については、個別原価計算の手続により当該指図書に集計された製造原価をもって取得原価とする。
  総合原価計算の手続を適用する仕掛品については、完成品換算量に基づき、先入先出法、平均法等を適用することにより算定された製造原価をもって取得原価とする。
 棚卸資産原価の配分方法(費用配分の方法)

 棚卸資産の取得原価は、本意見書の第一、二、1「費用配分の原則」に述べたとおり、払出原価(売上原価など)と繰越資産原価とに配分されるが、その配分は、原価の移転に関する仮定、たとえば、先入先出、平均、後入先出等の仮定にしたがって行なわれる。仮定の有無又は相違にしたがって、先入先出法、移動平均法、総平均法、後入先出法、個別法等の配分方法を区別することができる。それぞれの方法に応じて、算出される払出原価および期末棚卸資産原価は相違し、これを次のような呼称で区別する(注11)。 原価の配分方法  払出原価又は期末棚卸資産原価の区別  先入先出法    先入先出原価  移動平均法    移動平均原価  総平均法     総平均原価  後入先出法    後入先出原価  個別法      個別原価  売価還元原価法  売価還元原価  これらの原価配分法(企業会計原則は、これを棚卸方法となづけている。財務諸表準則、第一章、第五)は、移動平均法および売価還元原価法を除き、恒久棚卸法(継続記録法)および定期棚卸法(棚卸計算法)のいずれにも結びつく。恒久棚卸法には物量および原価によるものと物量のみによるものとがある。物量および原価による恒久棚卸法にあっては、払出量および払出原価ならびに残存量およびその原価が常時明らかにされる。物量のみの恒久棚卸法にあっては、払出量と残存量とは帳簿記録により常時明らかにされるが、原価の配分は定期的に行なわれる。定期棚卸法にあっては、実地棚卸によって期末棚卸資産の物量を確定し、これに受入記録から求めた先入先出原価、平均原価等を付して期末棚卸資産原価を算定し、これを記録された受入量およびその原価から差し引くことによって払出量およびその原価を算定する。
 移動平均法は、物量および原価による恒久棚卸法とのみ結びつく。売価還元原価法は特殊であって、売価のみによる恒久棚卸法を利用する。この方法にあっては、売価による払出額と残存額とは帳簿記録により常時明らかにされるが(この記録は商品のコントロールおよび原価率算定に用いられる。)、原価の配分は定期的に行なわれる。すなわち売価による期末棚卸高に原価率を乗じて期末棚卸資産原価を算定し、期首繰越商品原価と当期受入原価総額の合計からこれを差し引くことによって売上原価を算定する。
 実地棚卸は、定期棚卸法を可能にさせるための不可欠の手段であるにとどまらず、恒久棚卸法を採用する場合には、帳簿記録の不完全性を補うための不可欠の手段である。実地棚卸と恒久棚卸は合して棚卸資産の内部統制の重要な手段を形成する。恒久棚卸法によって記録された帳簿残高は、実地棚卸によって把握された実際残高と比較され、相違がある場合には、実際残高と合致するように修正されなければならない。棚卸修正差額は棚卸減耗費とし、原価性の有無にしたがい、原価性のあるものは製造原価、売上原価又は販売費に含め、原価性のないものは営業外費用項目又は利益剰余金修正項目とする。
 実地棚卸の方法には、定期実地棚卸の方法と循環実地棚卸の方法とがある。恒久棚卸の補充として用いられる実地棚卸の場合には、右のいずれの方法をも採用することができるが、定期棚卸法の手段として用いられる実地棚卸の場合には、定期実地棚卸の方法を採用しなければならない。
 予定価格、予定原価又は標準原価を適用して生産品原価を算定する場合には、実際製造費用は売上原価、期末生産品原価、原価差額の三者に配分される。原価差額は、合理的に僅少な場合を除き、これを売上原価と期末生産品原価に配分する。
 最終取得原価法にあっては、最終取得原価によって算定された期末棚卸資産原価を期首繰越原価と当期受入原価総額の合計から差し引くことによって原価配分を行なう。最近取得原価法にあっては、払出時における最近取得原価をもって売上原価を算定するとともに期末における最近取得原価をもって期末棚卸資産原価を算定することによって原価の配分を行なう。僅少な評価損益は、売上原価に加減する。
 基準棚卸法にあっては、基準量をこえる期首棚卸量の取得原価と当期受入量の取得原価の合計を売上原価と基準量をこえる期末棚卸量の原価に配分する。したがって期末棚卸資産原価は基準量評価額と基準量をこえる棚卸量の取得原価の合計から構成される。払出量が基準量に食い込んだ場合には、食込量を再調達原価等で評価した金額を売上原価に配分し、基準量評価額から食込量評価額を差し引いた金額を期末棚卸資産の正味価額とする。
 売価還元原価法にあっては、異なる品目をある程度一括して適当なグループにまとめ、各グループごとに原価の配分を行なう。後入先出法にあっても、その計算目的をよりよく達成するために(食込みの発生を防ぐために)類似品目を一グループとして原価の配分を行なう。とくに金額後入先出法および売価還元後入先出法の場合においてしかりである。先入先出法および平均法にあっても、手数を省略するために、若干の品目を一グループとして原価の配分を行なうことが認められる。
 原価時価比較低価法を適用する場合には、期末棚卸資産原価が時価をこえる部分は期間費用に配分される。いわゆる切り放し方式では、一たん期間費用に配分されたこの原価部分を次期に再び棚卸資産原価に繰り戻すことはないが、いわゆる洗い替え方式ではこの原価部分の一部又は全部を次期に再び棚卸資産原価の繰り戻す結果を生ずる。低価法による評価損はこれを売上原価に含める方式が認められているが、多額な場合には別個の費目とすることが望ましい(売価還元低価法の場合を除く。)。洗い替え方式をとる場合は、評価損を売上原価に含めないことが妥当である。売価還元低価法にあっては、売価による期末棚卸高に低価評価が可能になる原価率を乗じて期末棚卸資産価額を求め、これを期首繰越原価と当期受入原価総額の合計から差し引くことによって、評価切下額に相当する金額を含む売上原価を算定する。
 損傷品、陳腐化品等については、当該棚卸資産の利用、処分に先だち原始取得原価の一部が評価損として分離される。この評価損は原価性の有無にしたがい、原価性のあるものは製造原価、売上原価又は販売費に含め、原価性のないものは営業外費用項目又は利益剰余金修正項目とする。
 棚卸資産の範囲

 貸借対照表に棚卸資産として記載される資産の実体は、次のいずれかに該当する財貨又は用役である。

(イ) 通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役(ロ) 販売を目的として現に製造中の財貨又は用役(ハ) 販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨(ニ) 販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨

 生産販売のために購入された材料その他の財貨が、一部、長期性資産の製作に供用されることがあっても、本来、生産目的で保有されるのであれば当該財貨のすべてを棚卸資産とする。
 減価償却計算の対象となる供用中の長期性資産および償却計算の対象とならない供用中の長期性資産(たとえば土地)ならびに供用されたときに減価償却資産として区分されることが明確な、供用前の資産(たとえば据付予定の保有機械)は、棚卸資産ではない。長期性資産の一品目が一年以内に全額償却され、費用化する状態になってもそれは棚卸資産とならない。長期性資産が、本来の用途からはずされ、売却する目的で保有されることになった場合、当該資産は流動資産ではあるが、棚卸資産ではない(通常の営業過程で販売される対象ではなく、したがって費用財を構成しないから)。ただし、かかる廃棄資産を原材料として生産の用に供する目的で保有する場合には、当該資産は棚卸資産を構成する。
 工場の事務用消耗品は供用されるとともに間接費として製品に化体するから棚卸資産である。製品の実体の一部を構成する包装用品も棚卸資産である。その他の事務用消耗品、荷造用品は販売の対象たる製品に化体しないが、短期的費用財の性格をもつから棚卸資産である。
 棚卸資産は有形の財貨に限らない。無形の用役も棚卸資産を構成することがある。たとえば加工のみを委託された場合にあらわれる加工費のみからなる仕掛品、材料を支給された場合にあらわれる労務費、間接費のみからなる半成工事は棚卸資産である。
 不動産売買業者が販売の目的で保有する土地、建物等は法律上不動産であるが、通常の販売の対象となる財貨であるから棚卸資産を構成する。立木竹のうち短期間に伐採される部分も、短期間に費用化される費用財であるから棚卸資産を構成する。使用資産に類する物品であっても、その実体が徐々に製品に化体していくもの(アルミナ製造における苛性ソーダ溶液、苛性ソーダ製造における水銀等)、耐用期間がきわめて短いもの(消耗工具、器具、備品等)又は取得原価が微細なもの(単位当たり取得原価が一定金額未満の工具、器具、備品等)は、物的性状又は会計的条件からみて明らかに棚卸資産である(注12)。
 有価証券業者等が通常の営業過程において販売するために保有する有価証券は、販売目的の財貨であるから棚卸資産の本質を有する。ただし、その評価基準については別の意見書「有価証券の評価について」にゆずる。

第ニ 商法と棚卸資産評価

現行商法は、棚卸資産の評価に関する別段の規定をもたない。したがって棚卸資産には総則第三十四条第一項の評価原則すなわち時価以下主義が適用されることとなる。
 商法の株式会社会計規定の改正に当たっては、棚卸資産の評価原則として本意見書に述べた取得原価基準を採用し、例外的に低価基準を適用する余地をも残すべきである。

第三 税法と棚卸資産評価

 評価方法の体系

 法人税法は施行規則第二十条において、原価法、時価法および低価法の三つの評価方法を掲げ、棚卸資産の評価はそのいずれによってもよい旨を規定している。

(イ) 原価法中の最終仕入原価法については、これを適用しうる場合を限定し、時価法については、これを原価法と代替し得ない評価方法とする本意見書の趣旨を尊重し、健全な企業会計慣行の育成に協力されることが望ましい。

(ロ) 税法は、施行規則第二十条において低価法を認めるほか、さらに施行規則第十七条の二において時価が簿価より低い場合には、評価切下げをなしうることとしているが、特殊な場合を除き、施行規則第十七条の二の評価切下げは低価法による評価切下げと併合することが妥当である。

(ハ) 後入先出法については、期末材料、期末仕掛品中の材料、期末製品中の材料を通算して後入先出計算を行なう方法および金額後入先出法(アメリカでいわゆるダラー・ヴァリュー後入先出法)を認めるように考慮することが望ましい(注13)

(ニ) 売価還元法については、施行規則第二十条第一号チに対する個別通達昭三五直法一-六二、第三、九-一二が存在し、第三の九で売価還元平均原価法に当たる売価還元法を規定しているが、売価還元法には総平均法に該当するもののほか、後入先出法に該当するものがあるので、その採用をも考慮すべきである。
 また、施行規則第二十条では売価還元法を基礎とする低価法を規定しているが、そこでは、一たん売価還元平均原価法による原価を求め、しかるのち時価と比較して低価評価を行なう方式が考えられている。しかし売価還元法を採用する場合の低価法は、本意見書の第一、三、2に述べた売価還元低価法の方式をとることが一般的慣行となっているので、企業会計実務における実行可能性を考慮し、この規定を改めることが望ましい。これに伴い、売価還元法を原価法中の一方法とするとともに低価法中の一方法とすることが必要となるので、この点についても改正を要する(注14)。
 評価方法の適用

 評価方法の選択に関しては、施行規則第二十条において、大蔵省令の定める事業の種類ごとに各種評価方法のうちいずれか一つを適用するものとし、必要ある場合には、事業の種類ごとに、さらに商品又は製品、半製品又は仕掛品、主要原材料、および補助原材料その他の棚卸資産の四区分にしたがって異なる評価方法を適用しうる旨の規定を設け、これを受けて、施行細則第一条の九第二項および基本通達一八三の二で、所定の事業種類ごとに評価方法を選定することを困難とする場合、又はやむを得ない理由がある場合においては、税務署長の承認を得て、別に定めた事業の種類ごとに、評価方法を選定し、あるいは事業所別に棚卸資産の評価方法を適用し、又は税務署長の承認を得て、施行規則第二十条に規定する棚卸資産の区分をさらに細分して、当該細分された棚卸資産ごとに異なる評価方法を採用することができることとしている。

(イ) 仕掛品は未完成状態の製品および半製品をあらわし、完成した半製品とは区別されるので、仕掛品と半製品を別個の区分とすることが妥当である。

(ロ) 同一の事業種類又は同一区分に属する棚卸資産であってもその性質、条件等に応じてそれぞれに異なる評価方法を適用することが本来妥当視される場合があるのであるから、継続性を前提とし、細分された棚卸資産ごとに異なる評価方法を適用することを原則として承認する扱いとすることが望ましい。

(ハ) 基本通達一八六は、低価法についていわゆる洗い替え方式すなわち原始原価時価比較低価法を強制しているが、いわゆる切り放し方式すなわち簿価時価比較低価法をも規定し、両者の選択適用を認めるよう検討すべきである(この場合、後入先出法に基づく低価法の扱いについては本意見書の注解注7を参照)。
 棚卸資産の取得価額

 施行規則第二十条の四において、棚卸資産の取得価額には、他から購入した棚卸資産についてはその購入の代価、……、自己の生産(加工を含む。……)に係る棚卸資産についてはその生産のための原材料費、労務費および経費の額のほか、当該棚卸資産の引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他これ(当該棚卸資産)を消費し、又は販売の用に供するために直接要した費用の額を含むものとする旨を規定している。

(イ) 購入品の取得価額に含めるべき附随費用について、昭三四直法一-一五〇の一〇三は、一切の附随費用を取得価額に含めることを建前とし、買入事務費、移管費、保管費等第三号、第五号および第六号に掲げる費用についてのみ、重要性の原則の適用による取得価額への不算入を認めるにとどまっているが、引取費用等についても重要性の原則の適用を認めることが望ましい。

(ロ) 生産品の製造原価と製造原価以外の費用とのボーダーラインにある費目を製品原価とするか期間費用とするか、ならびに販売過程で生ずる費目を製品原価とするか期間費用とするかについては、企業の適正な判断にゆだねるべきである。したがって昭三四直法一-一五〇の一〇八についてはさらに弾力性をもたせるよう検討すべきである。

 また生産品の製造原価に算入すべき費目について、昭三四直法一-一五〇の一一二は必ず算入しなければならないものを掲げ、同一一三は製造原価に算入しないことができるものを掲げ、基本通達一八〇の六は、とくに定める費用を除き、製造原価に算入すべき費目かどうかの決定を適正な原価計算の基準によって行なうものとする旨を明らかにしているが、右の一一二において、製造原価に算入しなければならない費目として掲げているものには、適正な原価計算を行なっている企業にあっては当然に製品原価に算入する費目が存在すると同時に、製品原価に算入され得ない費目が存在する。製造費用の原価性については、企業をして適正な原価計算基準に基づいて判断させる余地を与えるとともに、課税所得計算上ぜひとも製造原価に算入させる必要のある最小限度の費目について一段と明確な規定をなすべきである。
 低価法上の時価

 施行規則第二十条第二号および第三号は時価法上の時価と低価法上の時価との区別を設けず、個別通達昭三五直法一-六二の第四の一四および一五において購入品については再買原価、生産品については再造原価を本則とし、生産品の時価は正味実現可能価額から利益を控除した金額を認めることとしているが、低価法上の時価としては、正味実現可能価額、再調達原価(再買原価又は再造原価)、正味実現可能価額から正常利益を差し引いた価額のうちからこれを自由に選択する余地を与え、継続適用を前提として企業が評価切下額を自主的に決定することを認めるべきである(時価および原価時価比較の方法については本意見書の第一、三、1を参照)。
 原価差額の調整

 個別通達昭二八直法一-五四の原価差額調整方式については、次のような点に留意して根本的な改訂を施す必要がある(注15)。

たとえば、

(イ) 工場ごとの調整を要求することをやめて、製品グループ別の調整を建前とすべきである。

(ロ) 原価差額を直接材料の原価差額と加工費の差額とに分け、前者については材料と仕掛品と製品の通算で調整し、後者については仕掛品と製品の通算で調整する方式を認めるべきである。

(ハ) 適正な標準原価計算制度が実施されている場合には、原価差額としてあらわれた遊休費および異常な不能率差異を要調整差額から除外することを認めるべきである。

(ニ) 一工場から他工場へのころがし調整計算又は一製品種類から他の製品種類へのころがし調整計算(一製品種類を他の製品種類の原料として使う場合における)は、なるべく排すべきである。

(ホ) 原価差額の調整と内部振替損益の修正は、切り離して行なうこととすべきである。
 価格変動準備金

 租税特別措置法第五十三条による価格変動準備金の制度については、(イ)この制度を適用する対象資産を検討する、(ロ)この制度の代りに基準棚卸法等を容認するなど、根本的再検討を必要とするが、さしあたり、準備金への繰入額を会計帳簿上費用に算入させることなく、課税所得算定上損金に認めることが望ましい。

「棚卸資産の評価について」注解

(注1) 公表貸借対照表に記載する生産品原価として、予定原価又は標準原価を容認するかどうか、原価要素の価格(材料価格、賃率および製造間接費配賦率)の一部又は全部を予定で計算した生産品原価を容認するかどうかには問題があるが、本意見書としては、会計専門家の一般的見解にしたがい、予定又は標準が適正に決定されており、原価差額が合理的に僅少である場合には、これらの原価を棚卸資産の貸借対照表価額となしうることとした。原価差額が合理的に僅少である場合という表現は、実際価格又は実際発生費用の側に異常性、不能率が存在するために多額の原価差額が生じても、それは多額の原価差額に該当しないという意味をもつのである。予定又は標準が不適正な場合においては、原則として原価差額の調整を行なうべきである。したがって原価差額についてはその性質(発生原因)を明らかにし、期間費用とすべきものと製品原価とすべきものとを区別することが必要である。後者の差額はそれが期間損益に対して微細な影響しかおよぼさない場合を除き、これを調整して売上原価および期末生産品原価に配分する。

(注2) 副産物の評価には、修正売価法のほか、取得時の評価をゼロとしてその売上高を主製品の売上原価から差し引く方法、代替品の取得原価の見積額をもって取得原価とする方法(概して副産物を自家用に供する場合に適用する。)、主副製品分類後の加工費をもって取得原価とする方法、一定の名目価額又は固定価額をもって取得原価とする方法等、多種多様な評価方法が適用されている。修正売価法は、副産物の唯一の評価方法ではない。これらの評価方法の選択は、副産物の性質、市場性、当該企業における副産物の重要性等に基づいて行なわれるべきである。市場性のある副産物については取得時の評価をゼロとする方法をとる場合でも、期末には修正売価による評価を行なうべきである。

(注3) 原価率の算式における分母から値下額および値下取消額を除外して原価率を計算し、これを期末商品の小売価額に適用すれば低価基準の評価額が求められる。したがってこの原価率による売価還元法を売価還元低価法とよぶことができる(売価還元低価法については本文第一、三、2参照)。
 売価還元法の全体は、取得原価基準に属する評価方法と低価基準に属する評価方法の両者を含むものと解さなければならない。

(注4) 最終取得原価法(購入品にあっては、最終仕入原価法又は最近仕入原価法、生産品にあっては、最終製造原価法又は最近製造原価法)は、わが国におけるきわめて多数の企業によって課税所得計算目的のために利用されているが、この方法は多額の評価損益を計上する可能性をもつので、これを無条件に企業会計にとり入れることは妥当でない。この方法の利用は本文に述べたような要件を満たす企業の場合に限られるべきである。
 最終取得原価法に類似した評価方法に時価法がある。時価法は時価主義を具体的に適用するための評価基準、すなわち時価基準に属する評価方法の総括名称である。時価法には、期末における再調達原価をもって棚卸資産評価を行なう再調達原価法と、期末における修正売価をもって棚卸資産評価を行なう修正売価法とがある。修正売価法は本文第一、二、3に述べるような一定の前提が存在する限り、本質的には時価法に属さないものとなしうる。わが国における若干の企業は時価法を適用している。時価法は、期末棚卸資産の取得原価を把握する手数を省略しようとする企業、又は会計要員の不足のために、取得原価の正確な把握が事実上行なわれがたい企業、会計帳簿が不備であって取得原価が明りょう正確でないと認められる小企業の場合に利用されているのである。しかし時価法は多額の評価損益を計上する可能性をもつので、その利用を避けることに努めるべきである。
 財産貸借対照表(特殊貸借対照表)にあっては、時価基準は唯一の評価基準であるが、期間損益算定を目的とする決算貸借対照表にとっては、時価基準は否定されなければならない。

(注5) 基準棚卸法にあっては、まず正常販売量、正常製造量に基づいて材料、製品等の最低必要手持量(基準量)を定め、これに最低取得原価(過去のデータおよび将来の見込みに基づいて決定する。)、すなわち基準価格を付する。この場合、基準棚卸法を採用する初年度における基準量の期首帳簿価額が基準価格による金額をこえる額は利益剰余金に課して切り下げる。基準量をこえる手持量は、これを通常の取得原価基準による取得原価をもって評価する(基準量をこえる手持量を時価基準で評価することもあるが、評価損益の計上を避けるには取得原価基準によることが望ましい。)。各年度末においても常に基準量は基準価格で評価し、超過量は取得原価で評価するが、年度末の手持量が基準量を割っている場合には、その不足量を再調達原価等で評価し、同額の食込補充引当金を設ける。

 払出材料、払出製品等の原価は、次の算式によって求められる。

(基準量の基準価額±期首超過量の取得原価額又は不足量の再調達価額)+当期受入量の取得原価額-(基準量の基準価額±期末超過量の取得原価額又は不足量の再調達価額)=払出原価額

 期中において期首超過量の取得原価および当期受入量の取得原価に基づいて先入先出法、平均法等によって払出原価額を算定する場合においては、その払出原価額と右の算式による払出原価額との間に差異が生ずるがこれは売上原価差額として処理する。
 基準量は、企業の規模その他の変化に伴う正常販売量又は正常製造量の変化に応じて変更される。基準価格は、それが決算時の時価を上回るに至れば引き下げられる。基準量の変更および基準価格の変更による棚卸資産帳簿価額の修正は一切、利益剰余金に加減することによって行なわれる。

(注6) 英国のチャータード会計士協会の意見では、低価法を適用する場合の時価として、基本的には正味実現可能価額をとる。しかし期末棚卸量が販売量に比して大きい場合、又は生産期間が長い企業、製品商品の売価が再調達原価の低落に応じて低落する事情が認められる企業にあっては、再調達原価をも考慮に入れることが必要であるとする。この場合には、取得原価、正味実現可能価額および再調達原価のうち最低の価額が評価額とされる。
 米国会計学会の意見では、もっぱら、正味実現可能価額を時価とする。
 米国公認会計士協会の意見では、根本的には、再調達原価を時価とするが、再調達原価が正味実現可能価額をこえる場合には、正味実現可能価額を時価とし、再調達原価が「正味実現可能価額から正常利益を差し引いた価額」より低い場合には、後者を時価とする。再調達原価を基本線としながら、このような上限と下限を定めているのは、再調達原価と売価との跛行関係から、再調達原価への評価切り下げが過大又は過少の評価切り下げとなるのを防ぐ趣旨である。
 米国所得税法では、再調達原価を時価とし、再調達原価が正味実現可能価額をこえる場合には、正味実現可能価額を時価とする。
 わが国法人税法では、本則として再調達原価(購入品については再買原価、生産品については再造原価)を時価とし、生産品の場合には「正味実現可能価額から利益を差し引いた価額」を時価とすることも認める(施行規則第二十条、個別通達昭三五直法一-六二、一四および一五)。
 ドイツ株式法には、取引所価格又は市場価格を低価法上の時価とし、これがない場合には「貸借対照表日の価額」を時価とする旨の規定がある。取引所価格は、貸借対照表日現在の取引所における購入原価、市場価格は、同日現在の具体的市場における購入原価と解されている。ただし、購入価格と販売価格が異なり、後者が低い場合には販売価格と解されている。「貸借対照表日の価額」は、取引所又は具体的市場が存在しない場合の実際取引価格を指し、購入品については、実際の購入原価、生産品については、正味実現可能価額から正常利益を差し引いた価額、正味実現可能価額が確定できない場合には、再造価額と解されている。
 西ドイツ株式法政府草案には貸借対照表日現在の取引所価格、市場価格、または貸借対照表日の価額からアフター・コストを差し引いた額を時価とする旨の規定が盛られた。したがって取引所価格、市場価格、貸借対照表日の価額は貸借対照表日現在における棚卸資産の販売価格を意味するもののようである。

(注7) 後入先出法に簿価時価比較低価法(切り放し方式)を併用すると、低価法の実施によって計上された未実現損失がいつまでも実現損失にならない可能性があり、したがって後入先出法をとる場合には、原価時価比較低価法(洗い替え方式)しか認めがたいという考え方がある。
 米国所得税法は、後入先出法には低価法の併用を全く認めていない。後入先出法のもとでは、価格上昇期において棚卸資産利益が課税所得として顕現せず、またこれに低価法の併用を認めると価格下落期に損金の計上を認める結果となり、他の評価方法をとる納税者に比し、後入先出法をとる納税者があまりにも有利な立場に置かれるという理由による。これに対して後入先出原価・時価比較による切り放し方式の低価法を税法に容認させようとする運動ないし主張が従来強く行なわれている。
 洗い替え方式の低価法ならば後入先出法と併用しても問題は生じないが、切り放し方式は前述の理由で税法にとり入れることが問題視されているのである。しかしながら、後入先出法の精神は、棚卸資産の正常在高について価格変動損益を期間損益から中和化させることにあり、正常在高をこえる在高については価格変動損益の中和化を図ろうとするものではないから、超過在高の評価額が時価をこえる場合には評価切下げを行なうことを容認すべきである。

(注8) 棚卸資産の確定買付契約が存在する場合において契約上の代価よりも時価が低落しており、かつ、その回復が見込まれないときには、これに対して、評価切下げを行なうことが是認されている。この見解にしたがえば、いまだ買手側の現実の棚卸資産を構成していない確定買付契約につき右の事情が確認されたときに、将来当該棚卸資産を入手したときに現実化する回収不能原価部分を切捨て、費用に計上することが許されるのである。借方「評価損」に対する貸方項目はこれを「買付契約評価引当金」として流動負債に計上する。買付契約評価引当金は、買掛金の一部の事前計上を意味する債権と解されるのである。

(注9) 期末棚卸量に生じた不可避の食込みがその後補充されたときに、その補充分につき原始原価を復活する後入先出法は、補充が行なわれた年度末に、補充分の取得原価と原始原価との差額を食込年度の売上原価修正(前期損益修正)として計上する方法である。
 食込分を食込年度の期末再調達原価で評価してその帳簿原価との差額だけ補充引当金を設定し、補充が行なわれた年度には、補充分の取得原価を最初の帳簿原価まで引き下げるために補充引当金を取りくずす後入先出引当金法も存在する。普通、補充分の取得原価と最初の帳簿原価との差と補充引当金取崩額との間に多少の誤差が生ずるが、これは前期損益修正(前期売上原価修正)として処理する。
 拘束在高法は期末棚卸量のうち期首量には期首評価額を付し、期首量を超過する数量には期末再調達原価を付する。期末数量が期首量を食い込んでいる場合には食込量に期末再調達原価を付し、期首量の評価額から食込量の評価額を差し引いた金額を期末棚卸額とするのである。
 食込量を期首評価額でなく、期末再調達原価で計算するから、インフレーション時にはそれだけインフレ利益が排除されるのである。
 拘束在高法は、基準量および基準価格を定めない点および食込みが回復されてももとの評価額を復活しない点で基準棚卸法と異なる。拘束在高法がここに説明した二つの後入先出法と異なる点は、食込補充分に最初の帳簿原価を復活しないことにある。

(注10) 贈与、交換、債権の代物弁済、現物出資、合併等によって取得した棚卸資産については、適正時価(現金買入価格、現金売却価格等)、相手方の帳簿価額等を基準にしてその取得原価を決定するのであるが、その詳細については後日「資産評価準則」を公表する際にゆずる。

(注11) 後入先出法は、いわゆる棚卸資産利益を期間利益に顕現させないようにすることを目的とする評価方法であるが、これには、物品の払出しのつど後入先出計算を行なう方法、期末材料と期末仕掛品中の材料と期末製品中の材料を通算して後入先出計算を行なう方法、材料の通算のみでなく、加工費についても期末仕掛品中の加工費と期末製品中の加工費を通算して後入先出計算を行なう方法、金額後入先出法(アメリカでいわゆるダラー・ヴァリュー後入先出法)等の区別がある。企業の諸事情、棚卸資産の性質等を考慮して最も妥当な方法が選択されるべきである。
 金額後入先出法にあっては、期末棚卸高の期末価額を最終取得原価で計算するか、期中の総平均原価で計算するか、期中の最初取得原価で計算するかにより、期末増加分の原価は最終取得原価となり、総平均原価となり、あるいは最初取得原価となる。
 金額後入先出法の適用には価格指数の算定が必要である。

(注12) 「使用資産に類する物品であっても、その実体が徐々に製品に化体していくもの、耐用期間がきわめて短いもの又は取得原価が微細なものは棚卸資産である。」というのは、その供用前の保有高を棚卸資産とする趣旨であるが、供用中のものであっても払出額を棚卸の方法又は月割計算の方法によって徐々に費用化していく場合には、いまだ費用化されない残高も棚卸資産を構成すると解すべきである。

(注13) 後入先出法については、不可抗力(戦争等)による期末在庫量の食込みが生じた場合には、これに対する救済手段として食込量が補充された場合において最初の帳簿原価を復活させる方法を特別立法によって認めることが望ましい。

(注14) 売価還元法にあっては、本文の第一、三、2に述べるような方法で低価基準の評価を行なうのを例とする。売価還元法にあっては、期末商品の時価としてその再調達原価を直接に把握することが困難なためである。
 期末商品の時価として正味実現可能価額又は「正味実現可能価額から正常利益を差し引いた価額」を把握し、売価還元平均原価と比較することによって評価切下額を決定する低価法の適用は、小売業にとって必ずしも不可能ではないが、実際問題として利用されていない。かつ、施行規則は購入品の時価を再買原価(仕入時価)と定めているのであるから、原価率によって再買原価に相当する価額を推定する結果となる通常の売価還元低価法の採用を認めることが理論的である。

(注15) 企業会計審議会から近く発表される「原価計算基準」は、原価差額の調整に関して次の基準を表明しているので、充分に参酌されたい。

(一) 実際原価計算制度の場合における原価差異の処理は、次の方法による。

1 原価差異は、材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課する。

2 材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦する。この場合、材料の期末在高については、材料の適当な種類群別に配賦する。

3 予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が発生する場合、直接材料費、直接労務費、直接経費および製造間接費に関する原価差異の処理は、次の方法による。

(1) 個別原価計算の場合

  次の方法のいずれかによる。

イ 当年度の売上原価と期末における棚卸資産に指図書別に配賦する。

ロ 当年度の売上原価と期末における棚卸資産に科目別に配賦する。

(2) 総合原価計算の場合

  当年度の売上原価と期末における棚卸資産に科目別に配賦する。
(二) 標準原価計算制度における原価差異の処理は、おおむね次の方法による。

1 数量差異、作業時間差異、能力差異等であって異常偶然な状態に基づくと認められるものは、これを非原価項目として処理する。

2 その他の原価差異は、実際原価計算制度の場合に準じて処理する。

 「原価計算基準」は、差額調整について右のように述べているが、なお原価差額の調整に関しては、全面的に申告書による調整を行ないうるように現行法を改めることを要望する声が強いので、この点検討すべきである。

連続意見書第五 繰延資産について

第一 企業会計原則と繰延資産

 企業会計原則における繰延資産

 貸借対照表原則の二によれば、貸借対照表の資産の部には、流動資産および固定資産とならんで、繰延勘定とよばれる区分を設けることとなっている。この区分に記載すべき項目もしくは科目は、同じく貸借対照表原則四の(一)のCによって、次のように説明されている。
 「繰延勘定は、前払費用と繰延資産とに区分し、前払費用は未経過分を資産の部に記載して繰り延べ次期以降の費用とした引き当て、創業費、株式発行費、開発費、試験研究費等の繰延資産は、一定の償却方法によって償却し、その未償却残高を記載する。
 前払費用で一年以内に費用となるものは、流動資産に属するものとする。」
 この場合、前払費用は、企業会計原則注解の十五が述べているように、一定の契約に従い、継続的に役務の提供を受ける場合において、ある期間中に、いまだ役務の提供を受けていないにもかかわらず、これに対して支払われた対価を意味している。したがって、かかる役務の対価は、普通、時間の経過によって、役務の提供を受けるに従い、次期もしくは次期以降の損益計算に、費用として計上されるべき性格を有しているから、これを貸借対照表の資産の部に掲記しなければならない。ただし、貸借対照表における資産の表示に当たり、流動資産と固定資産は一定の基準によって区分されなければならないので、前払費用についても、その金額が関係する損益計算の期間を考慮して、あるものを流動資産に、そして、あるものを固定資産と同様に取り扱って、繰延勘定に分別して記載する必要がある。すなわち、前払費用で一年以内に費用として計上されることとなるものは流動資産に属し、また、一年をこえて損益計算に関係する前払費用は繰延勘定に属するのである。
 しかしながら、企業会計原則は、繰延資産の本質について詳細な説明を加えていない。わずかに、貸借対照表原則の五の第二項で、「資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。」と前置きして、「繰延資産は、有償取得の対価を一定の償却方法によって各事業年度に配分しなければならない。」と述べるにとどまっている。このような説明による限り、企業会計原則では、繰延資産は、各事業年度に損益計算書に計上される償却額を通じて、数期間の損益計算に関係するものと考えられており、この意味において、繰延資産と前払費用を繰延勘定の区分に、同じような性格のものとして掲記する正当な理由を見出すことができる。
 繰延資産と損益計算

 企業会計原則では、企業の損益計算は、ある期間の収益からこれに対応する費用を差し引くことによって行なわれるものとしている。この場合、収益と費用は、その収入および支出に基づいて計上されるのみでなく、それらが発生した期間に正しく割り当てられる必要がある。したがって、ある期間の損益計算に計上すべき収益と費用の金額を決定するには、できる限り、具体的な事実もしくは客観的な根拠によらなければならない。もっぱら主観的な判断によって収益もしくは費用の金額を定めることは、損益計算上、厳に排除されるのである。
 いわゆる繰延資産は、ある支出額の全部が、支出を行なった期間のみが負担する費用となることなく、数期間にわたる費用として取り扱われる場合に生ずる。この点は前払費用の生ずる場合と同様であるが、前払費用は、前に述べたように、すでに支出は完了したが、いまだ当期中の提供を受けていない役務の対価たる特徴を有している。これに対し、繰延資産は、支出が完了していることは同様であるが、役務そのものはすでに提供されている場合に生ずる。
 このような支出額を当期のみの費用として計上せず、数期間の費用として処理しようとするとき、ここに繰延経理という考え方が適用され、この結果、次期以降の費用とされた金額は、繰延資産として、貸借対照表の資産の部に掲記されることとなるのである。
 ある支出額が繰延経理される根拠は、おおむね、次の二つに分類することができる。

(一) ある支出が行なわれ、また、それによって役務の提供を受けたにもかかわらず、支出もしくは役務の有する効果が、当期のみならず、次期以降にわたるものと予想される場合、効果の発現という事実を重視して、効果の及ぶ期間にわたる費用として、これを配分する。

(二) ある支出が行なわれ、また、それによって役務の提供を受けたにもかかわらず、その金額が当期の収益に全く貢献せず、むしろ、次期以降の損益に関係するものと予想される場合、収益との対応関係を重視して、数期間の費用として、これを配分する。
 この二つの根拠は、しばしば、一つの具体的な事象のなかに混在することがあるが、もし、このような根拠があれば、支出額の全部を、支出の行なわれた期間の費用として取り扱うことは適当ではない。すなわち、支出額を繰延経理の対象とし、決算日において、当該事象の性格に従って、その全額を貸借対照表の資産の部に掲記して将来の期間の損益計算にかかわらせるか、もしくは、一部を償却してその期間の損益計算の費用として計上するとともに、未償却残高を貸借対照表に掲記する必要がある。換言すれば、繰延資産が貸借対照表における資産の部に掲げられるのは、それが換金能力という観点から考えられる財産性を有するからではなく、まさに、費用配分の原則によるものといわなければならない。したがって、企業会計原則の立場からすれば、支出額を数期間の費用として正しく配分することに、きわめて重要な意味がある。
 この結果、繰延資産については、適正な償却期間を定め、その期間にわたって、時間の経過その他の適当な基準によって正しく償却を行なう必要がある。その期間は、支出又は役務の効果の及ぶべき期間、もしくは、支出によって影響される収益の計上されるべき期間を基準として定めれば足りるが、何らかの基準によって期間が定められれば、その後の損益計算は、毎期、正しく算定された金額を費用として計上することによって、おのずから正常に行なわれるのである。したがって、繰延資産について特別の事由が生じた場合、たとえば、将来計上されるものと予想された収益があがらない場合などでも、通常、繰延資産につき、規則的な償却を行なうものとする。
 繰延資産の内容

イ 創業費

 ここに創業費とは、株式会社の法律上の成立までの間に支出された設立費、および成立後営業の開始までの間に支出された開業費をいう。
 創業費は、会社の創業に関連するものであるから、その金額は、開業後の営業活動が負担すべき費用として処理すべきものと考えられる。もちろん、企業の営業活動は無限に続くものと想定することができるが、創業費を配分すべき期間は、最大限五年間と認定し、したがって、その金額をこの期間中に償却すべき繰延資産とすることが適当である。
 設立費の主要なものには、定款・諸規則作成の費用、株式募集その他のための広告費、株式申込証・目論見書・株券等の印刷費・創立事務所の賃借料、設立事務のために使用する使用人の給料手当、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、創立総会のための費用、その他会社設立事務に関する必要な費用で会社の負担に属する金額、および、発起人が受ける報酬で定款に記載して裁判所又は創立総会の承認を受けた金額、ならびに、設立登記の登録税がある。一方、開業費は、会社の設立後営業の開始のときまでに支払われた開業準備のための費用であるから、このなかには、土地建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利息、使用人の給料手当、保険料、電気・ガス・水道料等の費用のすべてが含まれることとなる。
 商法一六八条第一項第七号の規定によれば、会社の負担に帰すべき設立費用と発起人が受けるべき報酬の額は、これを定款に記載しなければ効力を有しないとされている。したがって、これらと設立登記のための税額とを加えた設立費の内容と金額は、きわめて明確に確定することができる。
 これに対し、開業費は、すでに会計単位としての会社が成立してから営業を開始するときまでの支出である。開業費の範囲については、それは開業までに支出された一切の費用を含むとする考え方、ならびに、開業費は開業準備のため直接に支出した金額に限るものとし、したがって、一般管理費に属する一部の費用は、これを含ませるべきではないとする考え方の二つに分けることができる。前者の考え方によれば、場合によっては、損益計算書が作成されないことがあり、また、後者の考え方によれば、損益計算書には当期純損失が計上されることが普通となるので、二つの考え方の差異は、このような結果上の差異として考えることが適当である。これと同様の見方は、受取利息をはじめとする営業外収益を、開業費から差し引くべきか、もしくは、営業外収益として掲げるべきかという問題、ならびに、支払利息をはじめとする営業外費用を開業費に含めて繰り延べるべきかどうかという問題についても、同様に適用することができる。
 創業費の償却については、二つの異なった方式を選択適用することができる。その第一は、設立費と開業費を一括して償却を行なう方式である。すなわち、営業の全部もしくは一部を開始することによって、営業収益があがった年度の末から創業費の償却を開始していくのであるが、この時期は、営業の一部を開始したときに限る必要はなく、その全部を開始したときとすることができる。これに対し、その第二は、設立費については、会社成立のときから償却を開始し、また開業費については、開業のときから償却を開始する方式である。
 なお、いずれの方式による場合でも、償却の期間は、最大限五年内にとどめるべきであり、また、毎期間の償却額は均等額であることが望ましい。

ロ 社債発行割引料

 社債を券面額以下の価額で発行した場合、券面額と発行価額との差額を社債発行割引料という。社債の割引発行は、社債の応募者利回りが市場の平均利子率より低い場合、発行者利回りを引き上げることによって応募条件を有利にするために行なわれるものであるから、社債発行割引料は、利息の前払に似た性格を有する。
 したがって、社債発行割引料は、その全額を社債を発行した期間の費用とするよりも、社債の発行から社債の償還に至るまでの期間にわたる費用として配分することが適当である。この結果、社債発行割引料は、繰延経理の対象となり、繰延資産とされるのである。
 繰延経理された社債発行割引料は、社債発行から社債償還に至るまでの期間内に、償却されなければならない。しかし、社債発行割引料は、割引発行された社債にかかわるものであるから、その社債の一部が、予定された償還期日前の繰上償還、もしくは借替などによって減少するときには、割引発行した社債総額に対する減少額の割合に従って、社債発行割引料を償却する必要がある。
 このような特殊の場合を除けば、社債発行割引料は、社債発行から社債償還に至るまでに期間内に、時間の経過を基準として、毎期の損益計算の費用として計上されるよう、その償却を継続的に行なっていくことが必要である。

ハ 社債発行費

 社債の発行に当たり直接に支出した金額、たとえば、募集広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、社債申込証・目論見書・社債券等の印刷費、社債登録税等は、この発行にかかわる社債の償還期間にわたる費用として、毎期均等額を配分することが合理的である。すなわち、社債発行費は、繰延資産として取り扱われなければならない。

ニ 株式発行費

 会社が創立されたのち、新たに株式を発行する場合、それに直接支出した金額、たとえば、募集広告費、金融機関の取扱手数料、証券会社の取扱手数料、株式申込証・目論見書・株券等の印刷費、変更登記のための登録税等を、株式発行の行なわれた期間にかかわる損益計算の費用として計上することは適当ではない。けだし、株式発行の効果は、たんに、発行した期間のみでなく、将来にも及ぶからである。かくして、株式発行費は、繰延経理の対象となるのであるが、繰延期間は三年程度が適当であろう。この期間は客観的な根拠に基づいて定められるものではないが、一たん、繰延期間を決定すれば、毎決算期ごとに均等額を償却していくことによって、毎期の損益計算の正常性が保証されることとなる。

ホ 開発費

 ここに開発費とは、現に営業活動を行なっている企業が、新技術の採用、新資源の開発、新市場の開拓等の目的をもって支出した金額、ならびに、現に採用している経営組織の改善を行なうために支出した金額等をいう。したがって、開発費には、経常費的な性格をもつものは含まれない。けだし、企業が現に採用している技術、および、現に保有している市場とくに販売市場に関係しない支出額は、支出の期以降の販売収益に貢献するものであり、また、現に採用している経営組織の改善のための支出額は、もっぱら、将来に至ってその効果が発現すると予想されるので、毎期の収益に対応させるべき毎期の費用とは区別されるからである。
 開発費は、ある特定の目的にかかわる支出額であるから、それらの具体的内容は、きわめて多様である。たとえば、新技術の採用のために支出した金額には、技術導入費、特許権使用に関する頭金等が含まれ、新資源の開発のための支出額には、鉱山業における新鉱道の開さくに要した金額等、また、新市場の開拓のための支出額には、広告宣伝費、市場調査費等が含まれる。開発費の償却は、支出が行なわれた期間の末から開始し、五年以内の期間にわたって、これを行なうことが適当とされる。

ヘ 試験研究費

 ここに試験研究費とは、現に営業活動を営んでいる企業が、新製品の試験的製作、あるいは新技術の研究等のため特別に支出した金額をいう。したがって、この試験研究費には、企業が現に生産している製品又は採用している技術の改良等の目的で、継続的に行なわれる試験研究のための支出は含まれない。
 試験研究費を構成する支出は、開発費の場合と同じく、きわめて多様である。ただし、試験研究のため特別に設計した設備で、研究終了後、使用しうると思われるものについては、これを試験研究費に含ませないか、もしくは、一応、試験研究費として処理し、転用時の金額を推定して、これを試験研究費の償却額の計算から控除することができる。また、試験研究の段階において発生した収益があれば、この金額を試験研究費から控除するか、もしくは、その金額だけ当該期間の償却額を増加させるものとする。
 試験研究費は、当期中の収益とは関係を有しないので、繰延経理の対象となる。その償却開始の時期は、支出の行なわれた期間の末のみでなく、試験研究が完了して、本格的な操業もしくは生産が開始されたときとすることができる。試験研究費の償却は、五年以内の期間にわたって、これを行なうことが適当とされる。
 試験研究が成功したときでも、試験研究費の未償却残高を資産とくに無形固定資産に振り替える必要はなく、逆に、失敗したときでも、これを全額償却して、その金額を営業外費用もしくは繰越利益剰余金減少高として処理しなくてもさしつかえない。けだし、試験研究費を一定の期間にわたって規則的に償却することにより、毎期の損益計算の正常性が、完全に保てるからである。

ト その他の繰延資産

 ある支出額を繰延経理したとき、その金額、もしくはその金額から償却額を控除した金額を貸借対照表に記載するときは、その内容を示す科目をもって繰延勘定の区分に掲記しなければならない。これを仮払金あるいは未決算勘定として流動資産の部に掲記することは、企業の財政状態に関する真実の報告をなしたことにはならない。
  このような繰延資産としては、通常、家屋等の賃借にかかわる権利金および立退料、公共的施設等の施設のための支出、製品の宣伝のために用いられる固定資産の贈与にかかわる支出等をあげることができるが、固定資産の取得に当たって支出した移転等のための補償金も、繰延経理されることがある。ただし、これらの金額はあらゆる場合に繰延経理されるのではなく、その支出の内容に従い、繰延経理の対象となるのであるから、その償却期間も、状況に応じ適当に決定しなければならない。
 特殊な繰延資産

 商法第二九一条第一項は、株式会社の目的とする事業の性質により、会社成立後二年以上、その営業の全部を開始することができないときには、開業前一定の期間内に、一定の利息を株主に配当する事を認め、もって、株式の発行による資金調達を容易にさせるようにしている。この配当額すなわち建設利息は将来に生ずべき利益の前払、もしくは資本の払戻の性格をもつものとされている。いずれの見解によるとしても、建設利息は繰延経理の対象となる。すなわち、建設利息として配当された金額は、一年につき資本の総額の百分の六以上の利益配当を行なったとき、その超過額と同額以上の金額を、各事業年度の利益をもって償却することを要するとされているので、全額が償却されるまで繰延経理されるのである。この場合、建設利息は経過的に貸借対照表の資産として取り扱われ、繰延資産とともに繰延勘定の区分に掲記される。したがって、建設利息は、特殊な繰延資産と解することが適当である。

第ニ 商法と繰延資産

現行商法は、次の四つの金額に限って、いわゆる繰延経理を行なうことを認め、繰延経理の対象とされた金額を、貸借対照表の資産の部に掲記するものとしている。

 設立費-会社の負担に属すべき設立費用、および発起人が受くべき報酬の額、ならびに設立登記のための税額(第二八六条)
 新株発行費-新株の発行のために必要な費用(第二八六条ノ二)
 社債発行差額-社債権者に償還すべき金額の総額が社債の発行によって得た実額を超過する金額(第二八七条)
 建設利息-会社成立後二年以上、会社の目的たる営業の全部を開業できないと認められるとき、開業前一定期間内に株主に支払った利息の額(第二九一条)

 企業会計原則の立場からすれば、現行商法における繰延資産の諸規定に関し、少なくとも、次の諸点につき改正することが必要である。

(1) 開業費の繰延経理を認めること。(2) 社債発行費の繰延経理を認めること。(3) 開発費と試験研究費につき、繰延経理を認めること。

第三 税法と繰延資産

法人税法施行規則(以下「施行規則」という。)第二十一条の八によれば、法人が支出した費用で、その支出の効果が当該支出の日以降一年以上に及ぶものは、これを繰延費用とよび、繰延費用についてなした償却額は、当該繰延費用の効果の及ぶ期間を基礎として計算される償却限度額以内の金額に限って、各事業年度の所得計算上、損金に算入することとなっている。しかしながら、繰延費用の償却額を損金に算入するに当たっては、次の三つの場合が区別されている。

 法人の計算に従って損金算入が認められているもの(施行規則第二十一条の九第一項)。

(1) 創業費-法人の設立のための支出で当該法人の負担に帰すべきもの

(2) 建設利息-商法第二九一条の規定により株主に配当した利息

(3) 株式発行費-資本の増加に伴う株式の発行のために支出した費用

(4) 社債発行費-社債の発行のために支出した費用
 支出時に全部又は一部の金額を損益に算入するか、もしくは、一部又は全部の金額を繰り延べて五年間で償却するかのいずれかを選択できるもの(施行規則第二十一条の九第二項および第三項)。

(1) 開業費-法人の設立後営業を開始するまでの間の開業準備のために特別に支出した費用

(2) 開発費-製品の販路拡張のための広告宣伝費及び接待費その他営業を開始した後新たな市場の開拓又は新たな事業の開始のために特別に支出した費用

(3) 試験研究費-製品の試作費、製法の研究費その他新たな製品の製造又は新たな技術の発明に係る試験研究のために特別に支出した費用
 支出後一定期間に償却しなければならないもの〔個別通達昭三四直法一-一五〇(以下「通達」という。)一二五等〕。

(1) 公共的施設等の施設に当たり支出した費用-その種類に応じ、当該施設等の耐用年数の十分の七もしくは十分の四に相当する年数又は三年を償却期間とする。

(2) 共同的施設等の施設に当たり支出した費用-その種類に応じ、当該施設の耐用年数の十分の七に相当する年数もしくは五年又は三年を償却期間とする。

(3) 自己の便益に供するための病床等の施設に当たり支出した費用-その種類に応じ、当該病棟の耐用年数の十分の七に相当する年数又は五年を償却期間とする。

(4) 自己の製品等の広告宣伝の用に供する固定資産を贈与するために要した費用-広告宣伝の用に供する固定資産の耐用年数の十分の七に相当する年数を償却期間とする。

(5) 建物を賃借するために支出した権利金、立退料その他の費用-その種類に応じ、賃借建物の耐用年数もしくは賃借後の見積残存耐用年数の十分の七に相当する年数又は五年を償却期間とする。

(6) バス路線開設等の免許出願に当り付けられた条件を達成するために支出した費用-十年を償却期間とする。

(7) 社債発行差金-社債の発行日から償還日までの期間を償却期間とする。

(8) ノーハウの設定契約に際して支出した頭金の費用-五年を償却期間とする。

(9) 職業野球選手との契約をするに当り支出した契約金等の費用-三年を償却期間とする。

(10) 炉体温しゃに要した費用-最近に行なわれた炉体の改築の直前の改築の完了日から最近に行なわれた炉体の改築の完了の日の前日までの期間を償却期間とする。

 わが法人税法は、繰延費用とその償却につき、通達によってきわめて詳細に規定しているのであるが、施行規則第二十一条の九および通達一二五にかかげる十七の項目は、通達一二五の文言によれば、繰延費用の例示にほかならない。また、通達一二六は、繰延費用の効果の及ぶ期間は、規則と通達に別段の定めのあるもののほかは、固定資産等に化体する繰延費用については、おおむね当該固定資産の耐用年数を、また、一定の契約をするに当り支出した繰延費用については、おおむね当該契約期間を、それぞれ、基礎として適正に見積るものとすることを述べている。
 本来、繰延費用とすべき支出額およびその償却期間は、税務当局の承認を前提として、法人が自主的に判断して決定すべきものであるが、わが法人税法の最近の傾向としては、通達による別段の定めによって、繰延費用の内容と償却期間を一律に規定することが指摘される。換言すれば、特定の支出の繰延経理とその償却に関する原則的な立場は、次第に変化しつつあるのである。
 たしかに、ある支出を繰延経理すべき場合は、現実問題としてきわめて多様であり、そのため、損金算入の限度を明確にすべき法人税法の立場からは、画一的な取扱いを行なう必要が大きいと解される。しかし、法人税法による規則としては、繰延経理および繰延額の償却期間について、法人に一応の基準を示し、この範囲内で、法人が自主的にこれを決定しうることを、さらに明確にすることが望ましい。