以前の記事「IPO関連書籍おすすめ7選」には含めませんでしたが、監査法人に勤務する会計士や証券会社の公開引受部に勤める若手ならば一度は読んでおくべき書をランキング形式で紹介します。
Index
第1位:Q&A 株式上場の実務ガイド
こちらはあずさ監査法人が編集しているIPO実務本となります。
目次は次のようになっています。
目次
第1章 株式上場の基礎知識
第2章 上場準備活動の実務
第3章 関係会社等の整備
第4章 資本政策の実務
第5章 業種別上場審査のポイント
第6章 上場後のリスクマネジメント
監査法人編の書籍はどうしても会計および監査よりの視点が多くなりがちですが、本書はブックビルディングやオーバーアロットメントなどのファイナンスフェーズの解説もQA形式で行っている点が高評価。業種別の上場審査のポイントなども結構面白いコンテンツでした。ほかには、特別利害関係者や関連当事者、関連当事者等、独立役員、社外役員など定義が似ていて混乱しがちなポイントも分かりやすく解説されています。
実務を行っているうえで疑問が生じるポイントや混乱しがちな点を上手く押さえQA形式で解説しているところが素晴らしいです。IPO準備支援をしている際に困ったことが生じたら本書をチェックしてみるという使い方をすると良いのではと思います。
第2位:これですべてがわかるIPOの実務
本書はあずさ監査法人と有限責任監査法人トーマツに加えて、みずほ証券なども編集に携わっている書籍です。また、本書は上級IPO・内部統制実務士資格の試験用テキストでもあり、IPO全般に関する実務書となっています。目次は次の通りです。
目次
第1章 株式上場の概要
第2章 株式上場の準備
第3章 資本政策
第4章 コーポレート・ガバナンス概論
第5章 経営管理制度の整備・運用
第6章 関係会社・関連当事者その他の特定の者の整備、M&Aとグループ再編
第7章 上場申請書類の作成
第8章 株式上場後の対応
第9章 上場準備責任者の職務特性
こちらはIPOに関する実務を体系立てて整理した本であるため、どうしても当たり障りのない形式的な解説が中心となっていますが、IPOって何?という初心者の方はこちらを一読するとIPO準備をする際に意識しなければならないポイントを把握できます。興味のあるパートや担当することになったパートについて別途深堀りをすることは必要になる点は注意です。
※「IPO・内部統制実務士」は、IPOを担う人材の養成と、上場企業等に求められる内部統制の構築と評価を理解し、企業価値の向上を推進する人材の育成を目的に、一般社団法人日本経営調査士協会によって2009年に創設された民間資格です。
第3位:株式上場ハンドブック
こちらは有限責任監査法人トーマツが編集している書籍です。私が若手のころに最初に購入した本です。新人のころは分厚い専門書のほうが情報量が多いので必要な情報が網羅されているだろうと思い購入しました。本書はハードカバーでページ数は900弱あり、かなりイカツイ本ですが、記載内容は会計・監査・税務が中心となっています。目次は次のようになっています。
目次
第1章:株式公開の経営的意義
第2章:各市場の特徴
第3章:資本政策
第4章:株式上場に関わる税務
第5章:株式上場準備・スケジュール
第6章:上場申請書類の記載方法
第7章:経営管理制度の整備
第8章:関連当事者等の整備
第9章:株式上場後の対応
第10章:海外上場への対応
巻末資料
会計・監査・税務は基準や法律が決まっているので、それをコピペして網羅性を持たしているだけで、経営者やCFOがIPO準備で本当に困っている内容についてはあまり解説されていない印象です。
それでもなお、お勧めしている理由は3点あります。1点目は、東証が出している新規上場ガイドブックの形式基準や実質基準も網羅していること。2点目は巻末資料の申請市場別申請書類一覧と新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)作成のためのチェックリストがまあまあ使えること。3点目は他のIPO実務本ではあまり解説されていない「労務管理」の記載があること。管理監督者の記載は他でも解説されていますが、本書はさらに割増賃金の料率や労働時間管理について労働者の自己申告制が例外的に認められるケースの解説がされている点で優れています。
会計・監査・税務については網羅されていますし、新規上場ガイドブックの内容や巻末のチェックリストなど役立つツールもあるので、IPO監査に携わる会計士の方であれば、本書を辞書として所持しておくのもありだと思います。
第4位:IPO実務検定試験公式テキスト
本書はIPO実務検定という検定試験を受験するために購入しました。網羅性はそれなりにあるのですが、内容が形式的かつ読みづらいです。論点もバラバラに記載されているのを一つに纏めれば分かりやすいのにと思う箇所が何点かあります。特に株式公開前規制の説明が理解しづらかった記憶があります。一方で、基礎的な内容ですが下請法や景表法等の法務の解説が他の書籍よりも詳しく勉強になる点が多く、その点は高評価です。
本書を検定試験のために何度も繰り返し読んだので、そこで漸くバラバラな記載が繋がってなるほどそういうことかと理解した点が多かったのを覚えています。また、検定試験のための問題集を解いて理解につながる点も少なからずあると思うので、時間のある方はこちらで勉強して検定試験を受けてみるとよいと思います。
その他:法務デューデリジェンス チェックリスト 万全のIPO準備とM&Aのために (NextPublishing)
IPO準備会社において規程集などを模倣して規程を作成するのも一手かもしれませんが、法務リスクに対応できていないというクリティカルな問題が後から出てきてしまっては元も子もありません。そこで、お勧めなのが、法務DD関連の書籍。こちら、西村あさひ法律事務所の弁護士がスタートアップ企業の法務・知財戦略支援、ベンチャー投資ファンドの組成・投資支援、IPO支援など、多くのベンチャー関連業務に携わった経験を元に、リスク項目をチェックリストにした書籍です。A4サイズでP100ほどとシンプルな作りになっています。さらに、IPO準備だけではなくM&Aの法務DDにも使える代物です。
リスクをとり新ビジネスに挑戦するベンチャー企業にとって、リスク管理は生命線です。しかし、費用等のために法律問題の調査は後回しになりがちで、時に思わぬ落とし穴にはまり、場合によっては手遅れとなることさえあります。
amazon紹介文
そこで、法務デューデリジェンス(以下法務DD)を効率的に実施できるよう、長年ベンチャー企業と投資家をつないできた第一線の弁護士が、法務DDのための資料リストとチェックポイントを標準化しました。無用の紛争や法律問題の芽を早期に摘み、経営資源を成長戦略に集中させ、企業価値のさらなる向上を図るためのソリューションを提供いたします。ベンチャーキャピタルへの投資家にとっては投資先の調査に役立つ「法務DDマニュアル」として、またベンチャー企業にとっては上場準備に入る際の法定監査に向けた「自己検査マニュアル」として、双方にとって有益な手引きとなり得る決定版の一冊です。
目次は次の通りで、会社法は勿論、知財や人事労務などの法務もカバーしています。
[1]はじめに
[2]会社組織
[3]株式
[4]契約
[5]資産
[6]負債
[7]知的財産
[8]人事労務
[9]許認可及び規制遵守
[10]訴訟その他の紛争
法務デューデリジェンス チェックリスト 万全のIPO準備とM&Aのために (NextPublishing)
その他
なお、是非とも読むべきIPO関連書籍は下記で纏めていますので、よかったらご覧ください。