先日、とあるクライアントから1年間のコンサルティング契約を外貨建てで支払った場合の会計処理について質問されて実務上の取り扱いは簡単に回答できたものの、根拠となる基準も改めて整理しようとしたら地味に分かりづらい作りとなっていたので、解説しようと思います。
まず初めに外貨建取引等の会計処理に関する実務指針を見ると「前渡金」について以下の通りの定めがされています。
外貨により授受された前渡金及び前受金は、金銭授受時の為替相場による円換算額を付す。前渡金は将来、財又はサービスの提供を受ける費用性資産であり、前受金は将来、財又はサービスの提供を行う収益性負債であるから、外貨建金銭債権債務ではない。
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針25項
ここで、敢えて「外貨建金銭債権債務ではない」と主張しているのは、外貨建金銭債権債務の場合は「外貨建取引基準」に従い決算時の為替相場による円換算が必要だからですね。
外貨建金銭債権債務については、決算時の為替相場による円換算額を付する。ただし、外貨建自社発行社債のうち転換請求期間満了前の転換社債(転換請求の可能性がないと認められるものを除く。)については、発行時の為替相場による円換算額を付する。
外貨建取引基準一2(1)②
そして、実務担当者を混乱させるのが「未収収益」や「未払費用」は決算時の為替レートで評価替えをするのに何故、「前払費用」や「前受収益」は取引時の為替レートのままで問題ないのかという点です。この点、「未収収益」や「未払費用」の取り扱いについては実務指針では次の通り規定されています。
外貨建未収収益及び未払費用は、為替換算上、外貨建金銭債権債務に準ずるものとして扱う。
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針27項
一方で、「前払費用」や「前受収益」は何ら規定はされていません。したがって、外貨建金銭債権には該当せず(準じて取り扱うこともせず)期末時に評価替えは不要となります。
以上が基準を丁寧に読み込んだ場合の会計処理の導出ですが、未収収益および未払費用のみを外貨建金銭債権債務に「準ずる」ものとして扱うことにした背景は「対価の授受」が未了であり、為替リスクを引き続き負っており決済額が大きく変動する可能性があるため、その状況を適切に財務諸表に反映させるべきと考えたのであろうと推察します。
他方で、「前払費用」や「前受収益」は対価の授受が完了しており、決済額が変動するという為替リスクからは解放されているため特に評価替えはせずとも問題なしと考えたのであろうと思われます。
応用論点:金銭債権債務とは?
皆さんは金銭債権債務の区別を正しくできておりますでしょうか?
・未収入金は金銭債権になるけど前払金は金銭債権にならない
・未払金は金銭債務になるけど前受金は金銭債務にならない
なお、金銭債権債務とは何かについては簡単に下記で纏めておりますが、「金銭の給付」「金銭の支払い」がキーワードとなります。未収入金や未払金は「金銭の授受」を目的としている一方で、前払金や前受金は「役務の授受」を目的としているため、前者は金銭債権債務に該当し、後者は金銭債権債務に該当しないと整理することができます。
さらに応用的な考察ですが、前払金の目的が固定資産である場合は「建設仮勘定」や「ソフトウェア仮勘定」になりますよね。つまり前払金の本質が事業投資ともいえるわけです。したがって、金銭債権ではないという考え方もできます。
建設仮勘定については参考までに財務諸表等規則を載せておきます。
建設仮勘定(第一号から第七号までに掲げる資産で営業の用に供するものを建設した場合における支出及び当該建設の目的のために充当した材料をいう。次条において同じ。)
財務諸表等規則第22条9号
※上記の第一号~第7号は建物、工具器具備品、土地等の有形固定資産が列挙されています。