上場準備会社(IPO準備会社)の監査難民について②

少し前になりますが、金融庁より「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書が公表されました。

https://www.fsa.go.jp/singi/kansaninkyougikai/houkoku/20200325/01.pdf

下記一部抜粋です。

大手監査法人
新規・成長企業への適切なリスクマネー供給の前提となる会計監査におい て、現状、IPO 監査(上場直前期の準金商法監査)の約8割を占める大手監査 法人には引き続き重要な機能の発揮が求められるとともに、公認会計士の人材 育成の重要な一翼を担うことも期待されている。 こうした問題意識に基づき、大手監査法人は以下の取組みを行う。 
① 資本市場の信頼性を確保し、新規・成長企業に必要な資金が適切に供給さ れるよう、質の高い監査の提供を通じて必要な機能発揮を果たしていく。その前提として、IPO を目指す企業の監査について、必要なリソースを適切に 確保・配分するとともに、専門的知見やノウハウの蓄積・集約とその効果的 な発揮、品質管理の向上に向けて、組織体制・人員配置のあり方を見直す。 
② 新規・成長企業がその成長プロセスに応じた監査又はサポートを受けるこ とができるよう、各監査法人において相談窓口の設置・明確化を図る。また、監査を受嘱しない場合には、その理由を企業に説明するとともに、適切 なフォローアップを行う等、企業の成長の道筋が閉ざされないよう取り組 む。特に大手監査法人には、様々な規模・業種の新規・成長企業についての 監査や IPO 支援業務に関する専門的知見やノウハウが蓄積されていることも 踏まえ、内部管理体制の構築をはじめとする企業の様々な取組みをサポート することなどが考えられる。
 ③ 日本公認会計士協会との連携の下、IPO を目指す企業の監査について蓄積 した専門的知見やノウハウについて、監査法人内はもとより他の公認会計士 とも可能な限り共有を図る等、IPO を目指す企業の監査の担い手の裾野を広 げるための施策を講じる。
準大手監査法人 
近年、IPO を目指す企業の監査について、大手監査法人が受嘱せずに準大手 監査法人が受嘱する件数が増加傾向にある。こうした中、準大手監査法人にお いては、限られた人員を最大限活用すべく、組織体制・人員配置の見直しを進 めているところもある。 準大手監査法人においては、今後とも IPO を目指す企業に質の高い監査を持続的に提供できるよう、以下の取組みを行う。 
① IPO を目指す企業に質の高い監査を持続的に提供できるよう、大手監査法 人と同様、専門的知見やノウハウの蓄積・集約とその効果的な発揮、品質管 理の向上に向けて、組織体制・人員配置のあり方を見直し、企業に対する適切なフォローアップ等に努める。
 ② 他の監査法人や独立開業の公認会計士との間で以下の連携・役割分担を図 る。IPO を目指す企業がその成長ステージにおいて必要な体制整備を行い、適 切なタイミングで監査を受けることが出来るよう、独立性の確保を前提 としつつ、監査証明業務又は監査の受入体制の整備等のアドバイザリー 業務の提供について、他の監査法人又はIPO支援事業者との適切な連携・ 役割分担を図る。大手・準大手監査法人において IPO を目指す企業又は上場企業の監査の 経験を有するなど、必要な専門的知見やノウハウを有している「独立開業の公認会計士」(大手・準大手監査法人の退職者など)と連携すること により、必要なリソースの確保を図る。

以上、『監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書』より

とはいうものの、大手監査法人が監査を受嘱しない理由は、採算が取れないことにあるのが現状である。監査法人も実質は営利企業であるため儲からないものにコストは割けない。その点、IPO準備会社は内部管理体制が未整備でこれから構築する必要があり、またビジネスも激しく変動するような状況で、監査リスクは非常に高く、監査が非常に困難である(多くの時間を割く必要がある)のだが、ベンチャーゆえに高額な監査フィーを支払うこともできない。さらに大手監査法人における監査品質の要求水準の向上が青天井になっている(これも金融庁による指摘を受けないためであるのだが・・)。そのため、今まで以上に監査資源(ヒトや時間)を割かないといけないため、公認会計士の数自体が足りていない状況もある。要するにリスクが高いクライアントなのに報酬も低く、かつ、ヒトを無尽蔵に割けない状況では優先度は落とさざるを得ないのだろう。

監査効率を上げる、もしくは、監査報酬を高める取り組みが必要なのだが、前者は監査品質を高めるほうにベクトルが向いているのでなかなか厳しい。後者はお金がないのだから物理的に難しい。そこで、アドバイザリーやコンサルなど非監査業務で利益を得てIPO準備へ回すという試みもあるようだが、アドバイザリーやコンサルをやっている人材からするとそこでの儲けが賞与などで還元されず、IPOへ回されるのだから不満が溜まっているという話も聞く。また一般企業では不採算事業のカーブアウト・撤退の意思決定が非常に重要になってきている中、監査でも同様だろうという考えの人もいる。組織は大変。

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