本稿では日本企業が国内企業の株式を取得して、子会社化した想定します。その前提で結論からいうと、PPAにより無形資産を認識・測定した場合、当該測定額分の「のれん」が減少することは勿論、無形資産は一時差異となるため「繰延税金負債(DTL)」が計上され、同額の「のれん」が増加します。そのため、無形資産+のれんの合計額は税効果分大きくなるので、生涯償却費合計は税効果の未適用時より(無形資産を認識せずのれんのままの場合より)も大きくなります。一方で、DTLが解消されていきます。つまり、当期純利益は変動しないものの、段階損益が変わるということです。
これはPPA初心者の会計士が漏らしがちの論点です。PPAを実施してから監査手続をやるタイミングで気付けたとしてもクライアントの心情としては「主張が遅すぎ」と思うことでしょう。信頼関係を気付くのであれば、買収価格(株価算定)の検討をしている段階で、PPAについても協議し、この税効果の話まで確りと伝えておくことが必要かと思います。
それでは、分かりやすく簡潔に説明してみます。
PPAにおける税効果のイメージ図
【前提】
純資産300、取得価額800、税効果30%、償却期間は無形資産、のれん共に10年とします。
無形資産200に税効果を適用するとDTL60が生じますが、その反対勘定が無形資産の減少ではなく、のれんの追加計上となる点に留意しましょう。
そして、償却費と税効果の適用の関係は下記の通りです(少々分かりづらくてすみません・・。)。
のれん、無形資産、繰延税金負債を10年で割ったものが償却費と法調。
PPAにおけるPLイメージ図
まとめ
無形資産を認識し、税効果を適用したケースでは段階損益が変わります(償却費と法調がそれぞれ6大きくなる_ネットするとゼロ)。したがって、無形資産を認識するのか否か、どの程度の測定額とするのかは企業の重視している経営指標にも影響を与えます。それは予算・事業計画にも影響するわけで、無形資産の税効果を認識しないベースで策定した計画を公表してしまうと、後々トラブルになることもあります。監査上は問題ないのかもしれませんが、クライアント・企業にとってはかなりセンシティブでクリティカルな内容なので、信頼形成のためにも、監査人は事前の頭出しができるくらいにはしておいてほしいです。
その他
なお、PPAとは企業結合に関する会計基準の28項以降のことを言います。関連基準を抜粋します。
※会計監査六法(Web版)に基準を取り纏めています。
取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後 1 年以内に配分する。
企業結合に関する会計基準28項
受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う。
企業結合に関する会計基準29項
企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる。
企業結合に関する会計基準注6
なお、暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う。企業結合年度の翌年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下合わせて「財務諸表」という。)と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる。
ここで、受験時代や書籍などで暫定的な会計処理について見たことがある方が多いと思いますが、これは上記のPPAをするために無形資産(本来は有形資産も)の価値算定をするのが大変だから1年間の猶予が与えられているんですね。無形資産の認識・測定実務についても今後解説していきますが、下記2冊が実務の入り口としては最適ですので、ご購読いただくとよいかもしれません。
私は左のデロイトFASのほうが好みですが、書店で手に取り好みの一冊を選ばれると良いと思います。もちろん、バリバリ勉強したいという方は両方買って読むと良いです。EYのほうはデロイトの書籍では弱い「のれんの償却期間」の決定におけるポイントの解説があったり、両者で重複するところも多いですが、欲しい情報がそれぞれにあるみたいなものもあります。私は、勉強するときはテーマに関する書籍を4~5冊買って一気に読む派ですが、PPAはこの2冊しかないので、これだけ。