2021年3月期から適用になるKAMですが、準備はできていますでしょうか?未着手のクライアントも着手済みのクライアントも2020年3月期に早期適用している事例を参考にしない手はないということで、数ある中から好事例といえるものを2社ほどピックアップしました。要所だけ抜粋し、簡単に解説も加えてますので、ご覧いただければ幸いです。
Index
住友商事の事例
①事業等のリスク(事業投資に係るリスク)
(重要な仮定)
住友商事_2020年3月有価証券報告書
Fyffes社ののれん及びその他の無形資産については、使用価値に基づき算定される回収可能価額が帳簿価額を下回った場合に、減損損失が認識されます。使用価値算定においては、販売数量・マージン・割引率等が重要な仮定として使用されており、これら仮定の変動により当社の業績に重要な影響を与えるリスクがあります。
②連結注記
(重要な仮定)
住友商事_2020年3月有価証券報告書
のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の減損テストは、複数の資金生成単位に分けて実施しており、回収可能価額は使用価値に基づき算定しております。使用価値は、取得価額の前提とした事業計画に対して、直近の事業環境を反映させた2~4年間の将来キャッシュ・フローの現在価値を用いて、独立した鑑定人の支援を受け、評価しております。使用価値に大きく影響を及ぼす仮定は、バナナ&パイン事業は販売数量・マージン・割引率等、メロン事業は販売数量・マージン・割引率等、マッシュルーム事業は販売数量・マージン・割引率等であります。
成長率は、資金生成単位が属する市場もしくは国の長期平均成長率を勘案して決定しており、のれん減損テストにおいてはバナナ&パイン事業は1.9%、メロン事業は2.3%、マッシュルーム事業は2.0%であります。割引率は、各資金生成単位の加重平均資本コストもしくは資本コスト等を基礎に算定しており、バナナ&パイン事業は5.7%、メロン事業は6.6%、マッシュルーム事業は6.0%であります。
(Head room)
住友商事_2020年3月有価証券報告書
メロン事業においては、当期末の減損判定に用いた主要な仮定が合理的に予測可能な範囲で変化したとしても、重要な減損損失が発生する可能性は低いと判断しております。
(感応度)
住友商事_2020年3月有価証券報告書
バナナ&パイン事業及びマッシュルーム事業においては、当期末の減損判定に用いた使用価値は帳簿価額をバナナ&パイン事業で10,559百万円、マッシュルーム事業で8,349百万円上回っておりますが、仮に割引率がバナナ&パイン事業では0.5%、マッシュルーム事業では1.3%上昇した場合、それぞれ減損損失が発生します。なお、マッシュルーム事業は、前期末において1,953百万円の減損損失を生活・不動産事業部門にて認識しております。
③監査報告書(KAM)
(KAM決定理由)
住友商事_2020年3月有価証券報告書
各資金生成単位グループの使用価値の見積りにおいては、各事業の事業計画の基礎となる将来の販売数量及びマージン、並びに割引率といった経営者による主要な仮定が使用されている。使用価値の見積りは、これらの仮定による重要な影響を受けるため、高度な不確実性を伴う。
また、特にバナナ&パイン事業及びマッシュルーム事業については、回収可能価額が帳簿価額を上回る余裕部分がそれぞれ10,559百万円及び8,349百万円であり、仮定が変動した場合に減損損失の認識が必要となる可能性がある。
④好事例のポイント
①事業等のリスク→②注記→③KAMのリファレンスが取れており、経営方針等で記載している成長戦略に内在するリスクを事業等のリスクに反映できている。さらに、SBKKのケースでは見受けられないが、Head roomも開示している。これらの開示により事業等のリスクに関して外部監査を受けていることをKAMを通して投資家へ訴求できる。
ソフトバンク(SBKK)の事例
①重要な判断および見積り
(重要な仮定)
SBKK_2020年3月有価証券報告書
企業結合により識別した無形資産(顧客基盤や商標権など)およびのれんは、見積将来キャッシュ・フローや割引率、既存顧客の逓減率、対象商標権から生み出される将来売上予想やロイヤルティレート等の仮定に基づいて測定しています。
②連結注記
(重要な仮定)
SBKK_2020年3月有価証券報告書
回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方で算定しています。処分コスト控除後の公正価値は、主に活発な市場における相場価格に基づいて測定しています。使用価値は、過去の経験と外部からの情報を反映し、マネジメントが承認した今後3~5年分の事業計画を基礎としたキャッシュ・フローの見積額を、当該事業セグメントの主な税引前の割引率として6.2%~10.2%(2019年3月31日に終了した1年間は5.1%~12.0%)により現在価値に割引いて算定しています。キャッシュ・フローの見積りにおいて、3年超のキャッシュ・フローは各期とも主な成長率が0.0%~0.6%(2019年3月31日に終了した1年間は0.0%~0.7%)であると仮定して使用価値を算定しています。「ショッピング」の資金生成単位グループの使用価値の算定に際しては、将来キャッシュ・フローの見積りにおいて、GMV(総取扱高)およびテイクレート(収益転換率)、市場成長率見込および市場占有率見込、割引率といった仮定を用いています。
毎連結会計年度の一定時期に実施した減損テストの結果、のれんおよび耐用年数を確定できない無形資産について減損損失は認識していません。
(感応度)
SBKK_2020年3月有価証券報告書
「ショッピング」の資金生成単位グループにおいて、仮に税引前割引率が約2%上昇または永続成長率が約3%下落した場合、回収可能価額と帳簿価額が等しくなる可能性があります。
③監査報告書(KAM)
(KAM決定理由)
SBKK_2020年3月有価証券報告書
ZOZO事業の将来割引キャッシュ・フローの見積りには以下の重要な仮定が含まれる。
・GMV及びテイクレート(収益転換率)
・市場成長率及び市場占有率の将来予想
・割引率
当監査法人は、㈱ZOZO株式取得により発生したのれんの金額に重要性があり、その期末評価における経営者の判断及び見積りの連結財務諸表に与える影響が大きいこと、また前提としている重要な仮定に不確実性があることから、当該事項を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。
④好事例のポイント
ZOZO事業の取得初年度に当事業の「のれん」の減損リスクをKAMに適切に記載している点が高評価。ZOZO買収の重要性から開示したものと思われる。KAMで監査の重点領域としながらも、減損は結局はなかったと監査証明を出している。つまり、投資家が不安に思う要素をきちんと監査のリスクフォーカス領域とし、リスク対応手続きを実施して、減損は不要というメッセージを投資家に伝えられた点は、会社と投資家にとってwin-winといえる。